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みんなが丈橋を祝っている中、ひとりだけ浮かない顔をした彼が後ろから声をかけてきた。
廊下に出て楽屋から少し距離のあるトイレに入る。
誰も近くにいないことを確認して、恭平が泣き出した。
嘘、本当は知っとった。
はっすんがにこにこしながら毎日話していた丈くんの裏話。
俺らの知らん丈くんを、はっすんは沢山知っていた。
でも、心のどこかで結ばれないでほしいって思っとったのかも。
それやったら、恭平やってこんな泣く必要なかったやろ?
半年近く前、恭平からはっすんのことが好きって伝えられた時は、そうやろうなって。
俺、こうゆう勘結構鋭いんやで?
「大吾くんやって好きな人おりますよね?」って、俺が流星のことが好きってバレとったのは焦ったけど。
「同性愛者同士、分かり合えると思うんです」
「やから大吾くんに伝えようと思った」
それから、俺らはお互いの恋愛相談に乗るようになった。
恭平は、ずっとはっすんのことを見てた。
やから、はっすんが丈くんのことを好きだってことも気づいてた。
泣き止む様子のない恭平の背中を撫でると、少し笑顔になってくれた。
大吾くん、ごめんなさい
こんな勝手に呼び出して泣いて、どうしたらいいかわからないっすよね。
迷惑かけてごめん、戻りましょ
泣き疲れたのかいつもより静かな様子の恭平が突然泣き止んで、俺の腕を引っ張る。
恭平が俺の方に振り向いて少し笑顔を作った
なんで、そんな笑顔でいられるんやろ。
空元気やったとしてもすごい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!