第4話

突然のスカウト
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2026/05/17 03:00 更新
― 2014年4月 熊本 ―

放課後の校舎は、部活へ向かう生徒達や下校する生徒達の声で忙しない。

窓の外から聞こえる運動部の掛け声。

夕陽に染まり始めた廊下を、あなたは同じダンススタジオに通う友達と並んで歩いていた。
みお
ねぇあなた、次のイベントの曲決まった?
あなた
んー……まだ悩んでる。フラの動きも入れたいんだよね
みお
てか、もう3年とか早いよねー
あっという間にうちら高校卒業じゃん
そんな、いつも通りの会話。
その時だった。
「あの……虹野あなたさん?」

突然後ろから声を掛けられ、あなたは足を止めた。

振り返ると、そこに立っていたのは見覚えのない男性2人。 スーツ姿で、明らかに学校関係者ではない。
あなた
……はい?
みおも「誰?」と言いたげに目を丸くしている。

男性は少し緊張したように会釈した。
男性
突然すみません。…少し、お時間いいですか?


数分後。

男性2人は、あのLDHのスタッフさん達らしい。

みおには先に帰ってもらい、あなたは1人、廊下の隅で、信じられない話を聞かされていた。
スタッフ
EXILE TRIBEの新グループを作るプロジェクトに、参加してほしいんです
あなた
………………え??
思考が止まる。

EXILE TRIBE。 LDH。 テレビの向こう側の存在。

自分とは一生関わる事のない世界だと思っていた。

あなたは数秒固まったあと、ようやく口を開いた。
あなた
……いやいやいや、待ってください
え?絶対、間違ってますよね?
真顔だった。
あなた
え、私で合ってます?本当に??
熊本の、普通の…ただの高校生なんですけど……
スタッフ達は顔を見合わせる。
そして、どこか困ったように苦笑いした。
スタッフ
間違ってないよ
あなた
……いやでも……
スタッフ
HIROさんが、ぜひ会いたいって
その瞬間。あなたの頭が真っ白になった。
あなた
…………ひ、HIROさん?
聞き返した声が、自分でも笑ってしまうくらい情けなかった。

スタッフの1人が小さく笑う。
スタッフ
うん。EXILEのHIROさん
あなた
……………………は???
理解が追いつかない。

あなたは、思わず廊下の窓に手をついて考える。

いや待って。
なんで? どういう事? 何が起きてんの??

フラ? ストリート? この前のイベント?
あ、それとも、前にテレビ出たやつか??

頭の中を疑問がぐるぐる回る。
あなた
え、あのー……新手のドッキリ…とかではなく?
スタッフ
違います笑
あなた
……私、何かしました?
スタッフ
んー、…踊ったんじゃないかな
あなた
……………………
スタッフは優しそうに笑った。
スタッフ
HIROさん、君のダンスを見て、
“会いたい”って言ったんだ
夕陽が差し込む廊下。

遠くでは生徒達の笑い声が聞こえる。

なのにあなただけ、急に別世界へ放り込まれたみたいに感じた。


しばらく沈黙が落ちる。

あなたは視線を落としたまま、小さく息を飲み込む。

そして、ゆっくり首を横に振った。
あなた
……ごめんなさい
スタッフ達が目を瞬かせる。
あなた
すごく、有難いお話です。……でも
言葉を探すように、少し間が空く。
あなた
EXILE TRIBEって……男の人のグループ、ですよね?
あなた
そんな中に私が入るなんて……絶対、釣り合ってません
その声は小さかった。

でも、冗談ではなく、本気でそう思っているのが伝わった。

あなたは自分の手をぎゅっと握る。

もちろん、ダンスは好きだ。 踊る事は、ずっと続けてきた。

でも、それとこれとは別だろう。

EXILE。 三代目。 GENERATIONS。 テレビの中で輝いている憧れの人達。

そんな人達と、自分も肩を並べるなんて……想像もできなかった。
あなた
私なんかより、もっと上手い人、……ふさわしい人は沢山いると思います。
…何より私は、……女です
廊下に静かな声が落ちる。

スタッフ達は少し困ったように顔を見合わせた。

やがて、最初に話していたスタッフが優しく口を開く。
スタッフ
……気持ちは、よく分かるよ
あなたが顔を上げる。
スタッフ
でも…結論を出すのは、一度HIROさんと会ってからでもいいんじゃないかと思うんだけど……どうかな?
あなた
……え

もう1人のスタッフも続ける。
スタッフ
ぜひ一度、HIROさんと会って、話を聞いてほしいんだ


あなたは言葉を失った。

断れば終わると思っていた。

でも、スタッフ達の表情は真剣だった。

廊下の外では、窓の向こうにオレンジ色の空が広がる。

あなたの頭の中は、ずっとぐちゃぐちゃのままだ。

怖い。 いや、怖いというより、現実感がない。

でも。

“HIROさんが、会いたいって言ったんだ”

その言葉だけが、ずっと頭に残っていた。

あなたはしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐く。
あなた
……会う、だけ、、なら…
スタッフ達の表情が少し明るくなる。
あなた
まだ正直、全然意味分かってないですけど……
あなた
……とりあえず、1回お話、聞きます
困ったように笑って伝えた。

その瞬間。

小さな歯車が、静かに動き始めた。

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