グゥー
あの日の事は、今でも鮮明に覚えていた。
あの子は自失していた僕に、声をかけてくれた。
その子は僕に、自分の分のパンをくれた。
彼女は、優しかった。
でも、僕は口を噤んだ。
急に、彼女の優しさが、恐くなった。
施設の人も…最初は優しかった。
だから、信じていた分、殴られた時は痛かった。
もうとっくに…誰も信じられなくなっていた。
『小林幸真』
それが、僕の通り名だった。
いつだって、誰に対しても。
その名前で、今日まで生きてきた。
--でも、この時は違った。
僕は、初めて後悔した。
彼女の、太陽みたいな笑顔を目にして。
胸が、申し訳なさで張り裂けそうだった。
ドコンッ!!
今は、願う。
あの時出逢ったままの、
大きくクリクリした、紫がかった眼。
その目がもう一度、私を映す事ができるように。
-数日後-
ギュッ
ナデナデ
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。