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第1話

体験入部、出会い、始まり
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2025/11/22 13:25 更新
薄暗く、所々機械のあかりが照らす他照明らしい照明が無い裏側から扉を1枚隔てただけの目の前で

眩しすぎる照明が照らす。

計算され尽くした照明と音響。
キラキラと艶の良いグランドピアノの黒が光を跳ね返す。
木目の床すら、褐色の壁、指揮台に譜面台すら、全てが光に包まれている。


そこに、コツコツと硬い足音を鳴らしながら入っていく。
目の前には客のまばらな客席。


ここは、私が夢にまで見た、夢の舞台。


この舞台を思わなかった日は無かった。
選ばれた1組だけが立つ事が許される素晴らしいホールの素晴らしいステージ。


そこに、私は今から立つんだ____。
ガヤガヤとうるさ過ぎる程の教室には、ホームルーム終わりの浮き立った雰囲気が蔓延していた。
綺麗な校舎に綺麗な制服。
何もかもが新品の新入生。
新しく買ってもらったスクールバックには、友達とお揃いのキーホルダー。
これを買ってもらうのにどれだけ母に頭を下げたか知れない。
私は、正直いって勉強が得意だとはお世辞にも言えない。
でも、この唱津高校(しょうづこうこう)に入学する為だけに勉強を続けてきた。
唱津高校の、合唱部に入部するために。
そのために必死で、必死で机に向き合ってきた。
そして今日、とうとう部活動体験が始まる。
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
あぁ〜!とうとう始まる部活動!!
嬉しさに悶えて、自席でぴょんぴょんと弾んでしまう。
この気持ちをどう落ち着かせようか、否、落ち着き方などこの時の私は知らない。
坂田 真理
坂田 真理
ちょっと張り切りすぎやない?たかが体験入部やろ〜?
少し呆れたように真理は言う。
私はグイッと真理によって力説する。
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
張り切りすぎなんて事ないわ!!だって唱津高校合唱部に入部できるんだよ!?
坂田 真理
坂田 真理
そんな凄いん?
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
凄いのなんのって!県大会優勝常連校、ブロック大会でいつも銀賞で悔し涙を呑んでる強豪校!
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
そんな部活入って一緒に歌えるなんて光栄以外の何物でもない!
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
だから、たかが体験入部、されど体験入部って訳。
「ふーん。」と、興味なさげに相槌を打つ真理は、入りたい部活がないからという理由で、私と一緒に合唱部に入部予定。
理由が理由なだけに、不服ではあるけど、きっと真理も合唱にハマっちゃうんじゃないかと、私は踏んでいる。
と、こんなことをしている場合では無かったのだ。
早く部活動場所へ行かなくては。
合唱部の活動場所は第二音楽室。
第一音楽室は吹奏楽部が使っている。
唱津高校は音楽がすごい。
だからこそ、合唱部のみならず吹奏楽部も目を見張る功績を上げている。
坂田 真理
坂田 真理
あ、あれやない?第二音楽室。
真理が指さす方向に、「第二音楽室」と書かれた札が。
その下には、「合唱部」と、可愛らしくデコレーションされたポップのようなものが付いている。
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
あぁあれや…。な、なんかここに来て緊張してきた…!真理、初めなんて言って入れば良いかな?
坂田 真理
坂田 真理
失礼しまーす
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
真理!!?
私の心配を他所に、真理はぐんぐん進み音楽室の扉を開けた。
今思えばこの時この瞬間、私の人生が色付き出したような気さえする。
私は恐る恐る真理の後ろから音楽室を覗き込む。
齋藤音羽
齋藤音羽
あー、いらっしゃーい!体験入部に来てくれたのー?
坂田 真理
坂田 真理
はい!1年の坂田真理(さかたまり)です!
「よろしくお願いします。」と、なんて事ないように挨拶を交わしている。
齋藤音羽
齋藤音羽
うわぁはじめまして!私は3年こ齋藤音羽(さいとうおとは)です!
齋藤音羽と聞いた途端、私ははっとした。
「齋藤音羽」、私が合唱を始めたいと思ったきっかけの人。
憧れてやまなかった、天性の才覚者。
「ほんものだぁ、」などと感嘆を漏らしていると、音羽さん(先輩と呼ぶべきだろうか?)が私の方を見ていた。
齋藤音羽
齋藤音羽
あなたの名前は?
そう言って、あの憧れの音羽先輩が私の目の前にやってきた。
もうそれだけで気絶案件なのに、さらに声までかけてくれてる!!
はぁ、私って、今日死ぬのかなぁ…。
そんなことを考えながら返事もままならない私を見かねて、真理が変わりに答えた。
坂田 真理
坂田 真理
この子、一ノ瀬  絵美(いちのせえみ)です。私のクラスメイトで、音羽先輩の大ファンです!
ニヤリと不敵に笑いながらこちらを見ている真理。
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
真理っ!?
齋藤音羽
齋藤音羽
え?私にファン?
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
いや!先輩!!
坂田 真理
坂田 真理
違うの?
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
真理っ!違う、、わないけど!
やば、めっちゃ顔熱い…。
今絶対、顔赤い…!
あったばっかの音羽先輩(憧れの人)に、こんな顔見られたくない。
死にた…。
齋藤音羽
齋藤音羽
あはははは!
隣から綺麗すぎるメゾソプラノが響いてきた。
それまでの恥ずかしさなんて吹き飛ぶほど綺麗な声。
この人の声は、なんてよく通るのだろうなどと、考えてしまう。
齋藤音羽
齋藤音羽
私のファンって、何?おかしっ!私、ファンが出来るような事、あんまりしてないけど。
目に涙を浮かべながら爆笑する音羽先輩。
そんな姿すら様になるのだから、すごい。
齋藤音羽
齋藤音羽
なんで、ファンなんて言ってくれるの?
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
え、えと…。
誰がずっと夢見てきた人物を目の前に真面目に話せるだろうか。
例えば、10年追い続けた推しが目の前にいて、「なんで推してくれてるの?」とでも聞かれているような状態だ。
一ノ瀬 絵美
一ノ瀬 絵美
ま、、前に、先輩の合唱を聴いて、それで…。
齋藤音羽
齋藤音羽
あー、聴いてくれたんだ〜!ありがとう!
ニッコリ微笑む。
破壊力抜群。攻撃力3万は固い。
私のHPは早くも限界だった。
齋藤音羽
齋藤音羽
ね、一曲みんなで歌うからさ、聴いてってよ!うちの部活ではこんなんやってまーすっていう、紹介だとでも思ってさ!
そう言いながら2つ椅子を準備してくれる先輩。
「てことだから、並んでー!」と、みんなに指示を出す先輩。
それに当然のようにしたがって整列していく。
1人が、指揮者として前に立った。
穏やかな先輩の顔が、一瞬の間にキリッと強くなった。
真剣な先輩。
そのどれもが、私の想像していた先輩と同じだった。
あの時に見て1曲の間に心を奪い去ってあの人と…

同じだった。
そりゃあ、同一人物なのだから同じか、と、勝手に自分の中で自問自答する。
そうこう考えているうちに、前奏が始まった。
そのピアノの音色すら、洗練されていて美しい。
指揮者の指一本に至るまで、全てが極められているようで目を奪われる。
歌が入る1泊の間、みんなが示し合わせたように同じタイミングで呼吸する。
先輩を含めた全員が一斉に声を出す。
一斉に出したのにパートごと違う音程。
その狂いのない音程たるや、宛ら録音でも聴いているようだった。
そして私を見つめながら歌う先輩。
私は、この人に2度目の恋をした____。
と言っても過言じゃないと思った。
つづく

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