薄暗く、所々機械のあかりが照らす他照明らしい照明が無い裏側から扉を1枚隔てただけの目の前で
眩しすぎる照明が照らす。
計算され尽くした照明と音響。
キラキラと艶の良いグランドピアノの黒が光を跳ね返す。
木目の床すら、褐色の壁、指揮台に譜面台すら、全てが光に包まれている。
そこに、コツコツと硬い足音を鳴らしながら入っていく。
目の前には客のまばらな客席。
ここは、私が夢にまで見た、夢の舞台。
この舞台を思わなかった日は無かった。
選ばれた1組だけが立つ事が許される素晴らしいホールの素晴らしいステージ。
そこに、私は今から立つんだ____。
ガヤガヤとうるさ過ぎる程の教室には、ホームルーム終わりの浮き立った雰囲気が蔓延していた。
綺麗な校舎に綺麗な制服。
何もかもが新品の新入生。
新しく買ってもらったスクールバックには、友達とお揃いのキーホルダー。
これを買ってもらうのにどれだけ母に頭を下げたか知れない。
私は、正直いって勉強が得意だとはお世辞にも言えない。
でも、この唱津高校(しょうづこうこう)に入学する為だけに勉強を続けてきた。
唱津高校の、合唱部に入部するために。
そのために必死で、必死で机に向き合ってきた。
そして今日、とうとう部活動体験が始まる。
嬉しさに悶えて、自席でぴょんぴょんと弾んでしまう。
この気持ちをどう落ち着かせようか、否、落ち着き方などこの時の私は知らない。
少し呆れたように真理は言う。
私はグイッと真理によって力説する。
「ふーん。」と、興味なさげに相槌を打つ真理は、入りたい部活がないからという理由で、私と一緒に合唱部に入部予定。
理由が理由なだけに、不服ではあるけど、きっと真理も合唱にハマっちゃうんじゃないかと、私は踏んでいる。
と、こんなことをしている場合では無かったのだ。
早く部活動場所へ行かなくては。
合唱部の活動場所は第二音楽室。
第一音楽室は吹奏楽部が使っている。
唱津高校は音楽がすごい。
だからこそ、合唱部のみならず吹奏楽部も目を見張る功績を上げている。
真理が指さす方向に、「第二音楽室」と書かれた札が。
その下には、「合唱部」と、可愛らしくデコレーションされたポップのようなものが付いている。
私の心配を他所に、真理はぐんぐん進み音楽室の扉を開けた。
今思えばこの時この瞬間、私の人生が色付き出したような気さえする。
私は恐る恐る真理の後ろから音楽室を覗き込む。
「よろしくお願いします。」と、なんて事ないように挨拶を交わしている。
齋藤音羽と聞いた途端、私ははっとした。
「齋藤音羽」、私が合唱を始めたいと思ったきっかけの人。
憧れてやまなかった、天性の才覚者。
「ほんものだぁ、」などと感嘆を漏らしていると、音羽さん(先輩と呼ぶべきだろうか?)が私の方を見ていた。
そう言って、あの憧れの音羽先輩が私の目の前にやってきた。
もうそれだけで気絶案件なのに、さらに声までかけてくれてる!!
はぁ、私って、今日死ぬのかなぁ…。
そんなことを考えながら返事もままならない私を見かねて、真理が変わりに答えた。
ニヤリと不敵に笑いながらこちらを見ている真理。
やば、めっちゃ顔熱い…。
今絶対、顔赤い…!
あったばっかの音羽先輩(憧れの人)に、こんな顔見られたくない。
死にた…。
隣から綺麗すぎるメゾソプラノが響いてきた。
それまでの恥ずかしさなんて吹き飛ぶほど綺麗な声。
この人の声は、なんてよく通るのだろうなどと、考えてしまう。
目に涙を浮かべながら爆笑する音羽先輩。
そんな姿すら様になるのだから、すごい。
誰がずっと夢見てきた人物を目の前に真面目に話せるだろうか。
例えば、10年追い続けた推しが目の前にいて、「なんで推してくれてるの?」とでも聞かれているような状態だ。
ニッコリ微笑む。
破壊力抜群。攻撃力3万は固い。
私のHPは早くも限界だった。
そう言いながら2つ椅子を準備してくれる先輩。
「てことだから、並んでー!」と、みんなに指示を出す先輩。
それに当然のようにしたがって整列していく。
1人が、指揮者として前に立った。
穏やかな先輩の顔が、一瞬の間にキリッと強くなった。
真剣な先輩。
そのどれもが、私の想像していた先輩と同じだった。
あの時に見て1曲の間に心を奪い去ってあの人と…
同じだった。
そりゃあ、同一人物なのだから同じか、と、勝手に自分の中で自問自答する。
そうこう考えているうちに、前奏が始まった。
そのピアノの音色すら、洗練されていて美しい。
指揮者の指一本に至るまで、全てが極められているようで目を奪われる。
歌が入る1泊の間、みんなが示し合わせたように同じタイミングで呼吸する。
先輩を含めた全員が一斉に声を出す。
一斉に出したのにパートごと違う音程。
その狂いのない音程たるや、宛ら録音でも聴いているようだった。
そして私を見つめながら歌う先輩。
私は、この人に2度目の恋をした____。
と言っても過言じゃないと思った。
つづく















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。