今日の仕事が終わった頃、店内のテーブルにめじろちゃんが座っていて、スケッチブックに何やら絵を描いている様子だったので、気になり声をかけてみることにした。
なんとめじろちゃんが描いていたのは私も大好きな植物のユーカリ。思いがけず、私自身も嬉しく感じてしまった。
彼は少し考えたような素振りを見せて、それからゆっくり話し始めた。
『確かあれは僕が小学三年生位の頃だったっけな。』
その当時、図画工作で絵を描く授業があった。
絵のテーマは「好きな動物」
それで、僕はなんの動物を描くか迷っていて、みんなよりも絵を描き始めるのが遅れてしまったのだ。
まぁ結局ベタな猫を描くことにしたんだけど……。
あんなに迷って考えた意味無かったじゃんって、感じだけどね。
それで、本当は三毛猫とか茶トラとか、そういう可愛い猫を描こうと思ったんだけど、なにしろ時間が無くってさ。あ、これは別に白猫とか黒猫が可愛くない訳じゃなくってね?
確か、元々アイデア構想から描きおわるところまでで合計5時間分くらい用意されてたはずなんだけど、僕が猫を描き始めたのは残り2時間の辺り……。
いや今考えてみると学校側で用意される時間少なすぎない?って思うけどね。まぁ、学校側もカリキュラムがどーたらこーたらで忙しいんだろうけど…一応義務教育だし、芸術科目ばかりに時間使ってられないんだろうけどね!でもやっぱ少なすぎ!!
そんなこんなで、結構やっつけで猫の絵を描いてしまったんだ。今はもうその絵はなくしちゃったんだけどさ、本当ひどい出来だったよ〜(笑)
色塗りだって雑にぐちゃぐちゃ塗りつぶしただけだし、色味だって全体的に暗すぎて肝心な猫が目立ってなかったし。
鑑賞の時間の時、僕は自分の絵のあまりの不出来さにうんざりして、同時に周りの席の子に対して申し訳なく思っていたんだ。ほら、学校の鑑賞の時間って自由にクラスメイトの作品を見回る前に、近くの席の子で班を組んでお互いに感想みたいなの書くでしょ?それそれ。それで、「こんな絵にいい所も何も無いな…」って思って、申し訳なく思ってたの。あの感想って強制的に書かされるようなものだから、よく何書くか迷っちゃうじゃん?
でもね、そんな不出来な絵でも褒めてくれる子が居たんだ。
鑑賞の授業が終わって浮かない表情の僕に1人のクラスメイトがわざわざ僕の席に来てくれてさ。
『目黒くんの絵、私すっごく雰囲気好き!こんなすごい絵かけるなんてすごいね!!』
って言ってくれたんだ。優しいよね、ホント。
その子は茶髪で肩のちょい下くらいまである三つ編みの女の子。前髪はパッツンだったっけな。その子はいつもはあまり喋らないで教室で本を読んでいる印象が強かった。だから、そんな子から急に自分が不出来だと思っていた絵(実際不出来なんだけど)を褒められたからすっごく驚いたんだ。
そして……すっごく嬉しかった。
彼女に絵を褒められたあの日から、僕は積極的に絵を描くようになった。
それと同時に無意識に彼女を意識するようにもなったから、もしかしたら僕の初恋は彼女だったのかもしれない。
そこまで一通り話しためじろちゃんは何やら複雑そうな表情で、ただ目線の先のユーカリ・グニーをじっと眺めた。
体感10秒ほど経ったくらいだろうか。彼が大きく一息ついて、再度口を開いたのは。
寂しげな声色で、それなのに口角は上がっていて……言ってみるならば自嘲、そんな感じだった。何故急にそんな反応をするのか、一瞬私には訳が分からなかった。
でも直ぐに私は大切なことを忘れていたことに気づく。
そうだ、そうだった。
私はまだこの何でも屋に来て歴が浅いから詳しいことは分かりきっていないけれど、店長からめじろちゃんのことについて聞かされていたことがある。その話もかなりうろ覚えだが…。
私の記憶さえ間違っていなければ、
『めじろちゃんは過去に事故にあっていて、事故以前の記憶がほとんど無い。』
あぁ、確かこうだったはず。
……彼は事故以前の記憶がほとんど無い、はず。
…おかしい。今回の話はめじろちゃんが小学三年生くらいの時のことだと言っていたのに。
そう不思議に思っていた時、めじろちゃんはまるで私の心のうちを見透かしていたのかように次の言葉を発した。
いつもとはだいぶ違う雰囲気のめじろちゃん、まるで別人のようだった。困惑、哀愁、自嘲…なんとも言葉では言い表しがたい程に複雑な表情をしていた。
私はショックと申し訳なさで言葉も出すことが出来なかった。
安易に人のプライベートなんて聞くんじゃなかった。
それがたとえ、共に仕事をする仲間だとしても。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。