目の前にいる、周りがお花で囲まれたお母さんに話しかける。
「どうする?あの子。」
「やーよ。家は精一杯だもの。」
「旦那さんにも逃げられて、娘は不幸ね。」
「あの子、涙さえ流していない。心がないのかしら。」
生憎、涙は出ない。
そんなに母親を愛してはいなかったのだろうか。
毎日ご飯を作ってくれて、学校でのお話を一緒にして、一緒に大掃除をしたり。
大好きなはずなのに。
涙がでない。
友達がいない私にとっては唯一の理解者だったのに。
冷たい母親の顔を優しく触りながら言う。
どうせ私を引き取る人はいないだろうと見かねて場をあとにする。
帰り道に足取りを軽くしながら楽しげに独り言を話す私。
その場にペタンと座り込み、さっき出なかった涙が溢れ出てくる。
ここじゃ迷惑だ。と何とか家に帰り、家に帰ってもその格好のまま誰もいない部屋で独り、大声で泣いていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!