天内理子が死んだ。
天元様のための人間。それが、死んだ。
悟は、「最強」になった。
もう、"二人で"最強とは言えなくなった。
夜蛾から聞いた九条の言葉が脳内に響き渡る。
九条は、薄く微笑んだ。
初めて見る、彼の笑みだった。
前に会った時の九条は、相槌を打っていただろうかと、そんな些細なことが頭に浮かんだ。
九条は何か言いそうだったが、途中でやめた。
私も、それを聞く気力はなかった。
この頃だった。
非呪術師を皆殺しにすれば、呪いなんて生まれず、呪術師も不条理に死ぬこともない。
非常口にも思える考えに蓋を閉められるほど、私は元気ではなかった。
彼は、私を名前で呼んだ。
忘れかけていたような、彼の下の名前を私も呼んだ。
彼は、窓に目を向けていて、私には顔が見えなかった。
それでも、彼が笑っているだろうことは分かった。
いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも。
いつも。
いつも。
訃報とは突然だ。
朝一番、全員が揃う中、そう言われた。
声を僅かに漏らしたのは、私だった。
「会えてよかった」
なんて言葉、最後に聞いておいて良かった。
私は馬鹿みたいにそう思った。
ただ。
ただ、ひとつの悔いは────
「私もだ」
と、返さなかったことだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!