第2話

1.さよなら鎮魂歌。
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2026/01/12 02:46 更新
少年だった彼が、見慣れないキャンプの中で項垂れている。行き交う人々は彼を視界には入れるが、何も言わず立ち去っていく。それもそうだ、その様に項垂れる者など星の数程見ているからだ。逃げた先は、また地獄であるこの世界で、失う責苦を味わう人間は少なくはないのだから。
アクタヴルム
……
しかし、彼を星の中から掬う者がいた。
バッカス・クローバー
ん、しけてんな。
高い背丈にあまり手入れされていると思えない髪でダボダボの服を着ている男。
ポケットに手を突っ込み、一声を掛けたかと思えば彼の隣にドカッと座り込む。
アクタヴルム
何であんたそんな飄々としてんだよ
アクタヴルム
全員…死んじまったんだぞ。
彼は、家族を失った。
そして一人遠く離れた避難キャンプに逃げおおせてきたのだ。
バッカス・クローバー
心外だねぇ。
バッカス・クローバー
これでもめっちゃ傷ついてるのよ?
懐から取り出した、革のポーチから一本の煙草。
すぐさまそれを咥えて、もう片手に持っていたライターで火を付けた。
バッカス・クローバー
フーッ
白い煙が辺りを染める。
不思議とその香りは、心地よいものであった。
アクタヴルム
俺は…これからどうすればいい?
アクタヴルム
死んじまった…死んじまったんだよ。
バッカス・クローバー
見つけてくしかないでしょ、ソレやるべき事は。
アクタヴルム
あんた…簡単にそんな事言える立場じゃないだろ!!
バッカス・クローバー
いんや、言えるね。
バッカス・クローバー
俺は、悪魔に、目の前で、母を殺された
バッカス・クローバー
親父や妹とは、何年も連絡がつかんさ。 
恐らく死んだな。
淡々とそう告げた。
まるで世間話をするかのように、何処か遠くを見据えて

幼き日の彼は、絶句した。
それは、あまりに救いがないではないかと。

バッカス・クローバー
でもそこまで、珍しくない。
バッカス・クローバー
フーッ
大きく息を吐き出す。
その呼気は、酷い怒りと諦めを孕んでいた。
彼は昔の自分に諭すように告げた。
バッカス・クローバー
悲劇の主人公は辞めるんだな。
お前も死ぬぞ。
灰皿に煙草をぐりぐりと押し潰した。何度も念入りに。
男は哀れんでくれていた、そして生きていてくれと切に願っていたのだ。
バッカス・クローバー
悪魔に恨みを持った奴から死んでいく。
アクタヴルム
知ってるのか…?
バッカス・クローバー
あぁ、勿論。何人もね。
バッカス・クローバー
俺達は、許すしかない。
じっくり咀嚼して、飲み込む事しか
許されないんだ。
アクタヴルム
悪魔の手のひら…だから。
バッカス・クローバー
いい得て妙だな。
アクタヴルム
あんたは、許せているのか?
バッカス・クローバー
全然?
バッカス・クローバー
そんな簡単に許せてたまるかってんだよ。
バッカス・クローバー
だけど…俺には熱中出来るもんがある
バッカス・クローバー
だから、生きれてる。
アクタヴルム
…あんたはそれでも。俺は。
彼の心は濁っている。自分への嫌悪と悪魔への憤怒。
そのどちらもが家族への後悔から生まれていた。
もう会えない、言葉も交わせない。
心の中で、その思いが反芻していた。
バッカス・クローバー
んん"…みなまで言うな、知っている。
それを口に出したら、怒りが「熱」になってしまうと男は分かっていたから続く強引に言葉を遮った。
バッカス・クローバー
簡単に人の気持ちは変えられねぇから、
俺はずっと教える。
バッカス・クローバー
怒りの代わりにこう謳え。
…さようなら、またいつかってな。
アクタヴルム
……さよなら、またいつか。
何処かで呟く。
さようなら、またいつか。










夢は、未だ続く。

そのウタを、どこまでもいつまでも謳っている。
家族と交わすことのないからこそ、彼は決別と進歩を
少しずつ感じることが出来たのだから。






こんなギャンブラーと、誰かと組める人
居ませんかねぇ……

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