あなたの下の名前side
病院で膵臓癌が悪化していると診断を受けてから一週間。
親と相談して、病院の近くに引っ越すことにした。
それから会社も辞める予定。
今日、上司に伝える。
相変わらずリノには伝えていない。
大好きなリノに知られてしまったら、強がっている私の心が決壊してしまいそうだから。
会社なんてあまり好きではなかったはずなのに、辞めるとなると寂しい。
仕事の引き継ぎもあるから、もう少し居るには居るけど。
最近、痛みで動けない日が続いている。
会社も3日くらい行けてなくて辞めることを伝えるのが遅くなってしまった。
いつも通り仕事をしているつもりだけど、何か滲み出るものがあったらしい。
お昼休み、自販機の前で後輩ちゃんに声をかけられた。
後輩ちゃんに私が抱えている全てのものを話した。
元々仲良い子だったし、彼女なら受け止めてくれるような気がした。
膵臓癌であること、幼馴染にそのことを伝えてないこと、幼馴染が芸能活動をしていること
会社を辞めること、家も引っ越すこと、本格的な治療を始めること
多分、全然まとまってない話だったと思う。
でも後輩ちゃんは「うんうん」って相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。
それだけで少し心が軽くなった気がする。
そのまま、お昼休憩が終わって午後の仕事が始まった。
その間もずっとリノに伝えるべきか悩んでいた。
本当に何も伝えてないから
リノは私がいつもの802号室でお酒を飲んでいると思ってるだろうな
せめて引っ越しくらいは伝える…?
でもな…
なんて考えてたらいつのまにか就業時間になっていた。
いつもなら残業をするのだけれど、上司が気を遣ってくれたのか今日は早く帰れた。
帰りの電車の中で携帯を出す。
LINEをあけてリノとのトーク画面を開く。
一呼吸置いてから私は…
“リノの通知をオフにした”
一日中悩んで私が出した結論は
「リノには伝えない」
だった。ストレイキッズだってまだまだこれからだ。
私のせいで仕事に支障をきたしたら嫌だし
それに、リノは私なんかよりもっといい人を見つけるだろうし
お酒をがぶ飲みしない、ちゃんとした女の子。
カバみたいに口を開けて笑わない、おしとやかな女の子。
馬鹿みたい…w
自分で考えてて辛くなって来た。
そろそろ最寄り駅に着く。
私は荷物を抱えて電車の席をたった。
私の泣き声は暗い住宅街に溶け込んでいった。
ばいばい、リノ
大好きだった…












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。