第39話

暗く、暗く、さらに暗く③
74
2023/11/05 00:52
うそだ


うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ
ルカ
…………嘘だろ?……
炎に囲まれて熱いはずなのに、その時だけ極寒の吹雪の中にいるのではと思うほどに悪寒を覚えた
目の前で倒れている妹には、既に体に力が入っていないように見えた
ぐったりとしていて、ぴくりとも動かない
ルカ
おい……起きろよ!変な真似はよせって!!
そう叫びながら首に手をやる

本来ならば動脈が動いているはずだ


そう、動いているはず

動いて、いるはずなのに………



焦って彼女の肩を持ち上げ、激しく揺さぶる
何度も、何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も


















辺りの紅い炎が自分たちを取り囲んで、辺りを真っ赤に染め上げた
それはまるで、ここは地獄だと言わんばかりに
俺たちを見て、嘲笑するようにさらに燃え上がる


ヒナは動かない
呼吸もしていない
心臓も、動いていない

つまりヒナは本当に——————
ルカ
……「うそ」だ…
どんどん呼吸が荒くなっていく
自分でそれを止めようとしてももう遅い

過呼吸になり、煙も多く吸っていたためすぐに息が苦しくなり、床にうずくまる


だんだんと麻痺していく頭の中で、必死に考える

どうしてだ
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして
何故ヒナが死ななければならない?

何故俺ではないんだ?
死ぬべきは俺だったのに

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
認めたくない
認めるもんか

唯一の家族だった妹が、目の前で死んでしまったなんて……

こんな現実、俺は大っ嫌いだ
クソ喰らえ

このやり場のない怒りと悲しみの中で、このまま延々と生きていくなんて
ここは地獄だろうか?



いや………そうなんだろうな
本当に……






ルカ
こんな"現実、大"っ嫌いだ!
床にうずくまりながら、過呼吸になりながらも喉から搾り出したその声
およそ自分のものとは思えなかった
もっと恐ろしいものが発するような声


そう、それはまるで、地獄にいる鬼の怒号のような声だった
・・・
大丈夫ですよ
























ルカ
……は?
顔を地べたに這いつくばらせながら、ゆっくりと目線だけを上げる
紅い景色の向こう側に、誰かがいる

今聞こえたのは、女性の声だった
でも、ヒナではない

ここにはもう、俺たち二人以外だけしかいないはずだ
それなのに何故?




目線が角度的にそろそろ何者かの顔へ届く
身だしなみや体つきからして、女性に間違いなさそうだ
やがて、全貌が明らかになる
整った、知性あふれる顔立ちとスラリとした体型が特徴的な、俺と同い年くらいの女性だった
カバンなどはなく、手ぶらで俺の二メートルほど先の地点に立っている

ここにいるということは、つまり俺と同じ状況に置かれているということだ
それに彼女が発した「大丈夫ですよ」という言葉
あれは俺のヒナが死んでしまった怒りで出した怒号に反応したのだと思われる

つまり、まだ希望はあるということだろうか
実はまだ脈があって、病院で手当すれば助かるということなのだろうか
心に小さい希望が生まれる
ルカ
あなたは……?
そう聞くと彼女は少し口角を上げて
・・・
私?私の名前など、どうでもいいと思いませんか?
そういう彼女の口は笑っているが、目は笑っていなかった
話しかけてきた時も、まるで凍りついてしまうのではないかと思わせるほどの冷たい目線を感じた

彼女に少しの警戒心を持ったところで、ようやく本来の目的を思い出す
ルカ
ッ!そうだ!妹は!?俺の妹は無事なんですか!?
俺たちは、ここから出られるんですか!?
一気に質問してしまったことに少しの罪悪感を感じながら、答えを待つ
彼女の三日月型の口から発せられたのは、
・・・
えぇ、大丈夫です
その一言を聞いて、心の緊張と焦りと絶望が一気に緩んだ
俺がしたことは、無駄ではなかった
少なくとも、こういった形で俺たちは助かることとなった

まだ、神様は俺たちを見捨ててはなかったのかもしれない

彼女が俺の方にゆっくりと近づいてくる
きっと俺たちを救出してくれるのだろう
腕を掴んで、ゆっくりと立たされる
ありがとうと、感謝の気持ちを伝えようとした





その瞬間、強い力で押された
掴まれていた腕を思い切り押されて、思わず体勢を崩し、壁にもたれかかってしまった
頭の中が戸惑いでいっぱいになった
ルカ
な、何を……
彼女はゆっくりとこちらに近づいてくる
その足取り
そして、彼女の笑っていない目と、まるでロボットのような貼り付けた笑顔

それはまるで、サバンナで獲物を狙う猛獣のよう——————





















・・・
ええ、「だいじょうぶ」ですよ






















































































・・・
すぐに、妹さんと、同じ場所に行かせてあげますから





ルカ
ッ!!
その言葉の真意を探る暇もなく、彼女が俺に向かって何かを振り下ろす



刹那、全身から力が抜ける
錯覚だと思った

だが、これは違う
最初に足が、続いて腕、首、口、最後には眼すら少しも動かせなくなってしまった

そして、次は五感が失われていく
辺りの燃え盛る炎の音がどんどん遠くなっていき、焦げ臭い匂いがだんだんしなくなる
視界が真っ黒に塗りつぶされていき、床に這いつくばっているという感覚すら無くなっていく










そして、薄れゆく意識の中で、俺は悟った
彼女、いや違う、あいつはここで迷っているものでも、ましてや俺たちを助けにきたわけでもない

あいつは、俺たちを殺しにきたのだ
おそらく人間ではないだろう
よく考えればわかることだ
このフロアはあまり広くはない

今更新しいやつと出会うなど、あり得ないのだ

そして、俺の反応を楽しむために、わざと友好的なふりをして近づき
「妹はまだ大丈夫だ、ここから逃げられる」と嘘をついたのだ

詰まるところ、やはりヒナは死んでいたということだ
先ほど抱いた少しの希望が、想像を絶する絶望に塗りつぶされていく

俺が最後に見た景色は、俺たちを殺したクソ野郎と、その後ろにもう一人いるのが見えた
仲間がいたのか




まぁ、今更そんなこと、どうでもいいが

疲れたな

おやすみなさい

さよなら、クソみたいな世界
Latte
……めめ、さん?
私は正直困惑していた
めめさんは、そんな人だったのか、と
少し希望をちらつかせておいて、最後には相手を絶望の淵に叩き落とす……
アニメの悪役がよくやるような手法だが、まさかめめさんがそんなことをやるとは思っていなかった
めめんともり
……どうしたんですか?
首だけをこちらに向ける
紅く燃ゆる炎が彼女の顔に反射して、冷たい顔が紅く染まる
彼女の顔は、どこか虚に見えた

最初は、こんなじゃなかった
でもいつの間にかこんなにも距離が空いてしまって

こんなにも近くにいるのに、どれだけ手を伸ばしても届きそうになかった
Latte
あの……少し、聞きたいことが……
そう言うと、彼女はゆっくりとした動作で足取りをそろえてこちらに歩んできた

何かおかしい
逃げた方がいいのでは

そう思った時にはもう遅かった

左手で私の腰に手を回し、私を逃げられないようにした
右手を顎にやり、強引に彼女自身の顔を向くようにされた

そして、心の中に入り込んでくるような、甘い声で彼女は囁きかける
めめんともり
私に隠し事は出来ませんよ…?
思わず体が跳ねる
この甘い誘惑に呑まれてしまいそうだった

だが、私は気づいている
その甘さに隠れている「影」があることを
めめんともり
あなたが何故私のところに来て、何を聞こうとしているのか……よく分かります
「私もそういう経験がありましたからね」
と付け足した後に、さらに顔を近づけている

いつもの私なら近いと言って跳ね除ける距離だ
しかし、この時は体が言うことを聞かなかった
まるで蛇に睨まれた蛙の気分だ

腕の縛り付ける力が強くなり、逃げることがほぼ不可能になったと同時に、彼女と体が全体的に触れる
もはや額がくっついているような超至近距離だ

紺色の瞳
悪魔の美貌
私に触れるこの手

全てが「危険な甘さ」を秘めていた






そして、私が求めていた答えを、ついに発した
めめんともり
貴方はもう「死神」なんですよ。もう人間ではない。









Latte
そう……ですよね……
自分の心の中に、暗い、暗い影が落ちた気がした
決して溶けない氷のように冷たい彼女の視線が、体を突き抜ける

そうだ、私は死神
この手で誰かの魂を刈り、そして輪廻転生をさせる
人が死ぬのはその副産物でしかない
めめんともり
聞きたかったことはそれだけですか?
Latte
……えぇ
めめんともり
ならよかった。では、明日も仕事があるので、これで帰りましょうか!
言うや否や私の身体の束縛を解き、そのまま虚空へと消えた

私が最後に聞きたかったことも聞かずに


このタイミングを逃したら、きっともう聞けないだろうと思っていたのに



目の前では鎮火寸前の炎がまだ燻っており、赤を通り越して漆黒の闇へと消える
目を空に移せば、堂々たる金色の小さな惑星
ああ、そうだな

その燻っている炎は、まるで私
空に浮かぶ天体は、まるで彼女

心の中でガシャン、と、監獄の檻が閉まる音がした
イヤホン少年
うぇーーーーいwww
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
投稿頻度空きすぎですよ……
イヤホン少年
はい、誠に申し訳ございませんでした
イヤホン少年
というのも、もう既に期末考査のテスト期間なんですね、これが
イヤホン少年
なので、また投稿頻度が(ry
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
いつものですね……







イヤホン少年
まあそんなことよりですね、これ見てくださいよこれ
イヤホン少年
いやーまじでありがとうございます!
イヤホン少年
読者の皆様には謝謝麻婆茄子って感じなんですけれども!
鈴蘭 琴音
鈴蘭 琴音
これからも一応投稿は続けますので、どんだけ投稿期間が開いても、どうかお許しください
イヤホン少年
それでは!

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