「お前と天照の関係……?」
宝娘が聞き返す。殺は胸を張り、大きく頷いた。
「僕は天照の__」
「天照の友人の親戚の嫁の再従兄弟の母親の顔見知りだ!」
「要するに他人ってことですね。」
「なっ」
咲子は少しながら期待してしまった自分を恥じるように手の甲を額に当ててため息をついた。ゐわりはもはや何も言わざる聞かざる。瀧の淹れてくれた茶を啜っているところだった。
「…まぁ、僕がどうとか関係はなくとしても、天照の不快の情による流行り病ってのは有り得ないぜ。」
「何故です?」
「僕は言わずともがな南の里の住民だ。南の里では(僕以外は)もはや神の存在を信用してない。つまり、神々がどうとか知らないし、神の怒りを買おうとすら行動を起こす輩もいる。それがあっても流行り病はずっと無かったんだぜ」
「おや、君は神ではないのかい?」
「僕は神の仕いだ。瀧と同じようなもの。」
瀧は散った落ち葉をきちんと集めて端に寄せ、仕事が一息ついたと宝娘のお側に寄っていた。
ゐわりはなんとはなく、嫌な予感に耽っていた。神虫に関してでもあるかもしれないが、何かその他のこと…まるで花札の賭けを綴にでも払い忘れていたというような、本当にほんの小さなことやもしれない。そんなことは気のせいだと首を振り、ゐわりはもう一口茶を飲んだ。
「君に興味がある。何の神の仕いかね?」
「ネメシスだ。しかしあの女神は心の誠に美しい女性を好む。男性であり、この性格である僕は仕いとしても嫌だったようだね。」
殺は肩を上下させ、やれやれと手を上げた。
確かに、ネメシスは人間一人一人に幸と不幸を配り分ける。不幸の源であろう南の里の仕いなど持っての他だったのかもしれない。
「……あまり縁起の良い話ではないね、心配だが、酒場の近くは通らずして進むとするよ。貴重な情報有難く思う。」
「何かありましたら僕に文通を送ってください。飛んで行きますよ。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。