少女達が全ての依頼を終えた、ある日のこと
病院の窓辺で外の景色を眺める少女の姿が、そこにはあった。
彼女はなんでも屋の少女達に救われた、都市伝説『紫鏡』の元凶、メア。
本来はこの言葉を20歳まで覚えていると亡くなってしまう。そんなウワサだったが、元凶であるメアは既に自分の意思で成仏したのだ。
今日は現世に遊びに来ていた。
メアは顔を歪めながら、病院を設置した時のことを思い浮かべる。
♢♢♢
メアは久々に現世に来たこともあり、生前持病で行けなかった故郷の町を散歩していた。
意外にも来たことのない場所の方が栄えていて、高価そうなアクセサリーショップ、大きな娯楽施設、行列のできたスイーツ店まであった。
元気な時にこの場所を知っていればな、と思ったが、生憎、メアは友人が1人も居ない。
辛い現実に心を痛めつつ前へ進んで行くと、突然囲んでいた施設が途切れてしまう。
見ると、さっきまでこれでもかというくらい賑わっていた場所とは打って変わって、ひらけた場所に出た。
そこは全くもって人は居らず、前向きに考えれば自分だけが知っている秘密基地、悪く受け取れば人々から忘れられた空き地に見えた。
何を思ったのか、メアはこの空き地に病院を建てた。
どうせ大抵の人間には見えないし、人が栄えている場所とはいえど大した問題はない。
そう、だからこそ油断していた。
いつもの病室に入り、いつものように窓辺で賑やかな町をぼうっとしながら見ていると、見覚えのある人物がこちらを見ていることに気づいた。
七瀬 優珠。メアを救ったなんでも屋の少女の1人だ。
しかし、この子は他とは違う、異質な存在だった。
────幽霊。自身の素性を自覚した上で、人間であるなんでも屋の少女達に溶け込んでいるのだ。
他の少女達に話しているのか、メアは知らない。
だけどどのタイミングで話そうが、彼女達なら受け入れてくれるだろう。
メア自身少ししか話したこともないのに、確信していた。
それにしても、どうしてこんなところに居るのだろう。
先程見た騒がしい場所なら理解できる。だが彼女は一直線にこの病院の前へとやって来たのだ。
こんな場所に病院があることなど、別におかしくはないはずだ。
メアは少し怪しく思ったものの、やがてすぐに溜め息をついた。
考えすぎるのは悪い癖だ。『紫鏡』だってそれで…
自責の念に駆られたせいで、嫌な感情ばかりわき上がってくる。
気持ちを切り替えようと無理やり窓の外をのぞく。
────そこには誰も居なかった。
七瀬は、メアが見ていない間に視界から消えるくらいの移動をしたのか。
…いや、単にどこかの店に入っただけかもしれない。少し寂しく思いながらも、メアは現実を潔く受け入れるしかなかった。
そんなことを考えていると、突如ドンドンと音が響く。
音の鳴り方から、おそらく足音だと即座に理解する。
音の根源は、どうやら下の階みたいだ。
メアは、咄嗟に病室の外へ大量の看護師や患者を出現させた。
見た目は普通の人間だが、近づけば大人数で襲われて同じようなモノにされてしまう。
分かりやすく言えば、ゾンビのような存在だ。
ちなみに、これを使ったのは『紫鏡』で病院へとやってきた男の子のみ。
今回は対抗策として思わず出してしまったが、本音を言えば男の子以外を殺したくなかった。
メアのそれは優しさではない。単なる男の子に対する逆恨みだ。
足音が徐々に近づいてくる。妨害があるため最初よりかはゆったりとした速度だが…倒されているということか。
これまでの情報をふまえても、今もなおずっと懸念している嫌な予感からも察することが出来る。
────こちらへ向かってきているのは、幽霊だ。
メアの出すゾンビのようなもの達は、いわばただのハリボテ。
人間相手になら能力を使われようとも数の暴力で簡単に殺すことが出来るものの、攻撃することが可能な幽霊には簡単に薙ぎ払われてしまう。
とはいえ、そんな弱点は彼女自身がよく知っている。
向かってくる相手の能力が分からないのも不安要素ではあるが、そもそも味方か敵か、はたまたそれ以外か。それすら分からないことが何よりも怖い。
とりあえず、メアは逃げの一手で相手の様子を伺うことにした。
メアは一度深呼吸をし、思いきって扉を開く。
何となく言葉にしてみて、意外にも安心しているのだと自覚せざるを得ない。
ただ、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
まさかの来た。
例の幽霊は、この短時間で全てのハリボテ達を倒したのだ。
ただメアはハリボテが0になると、再度ハリボテ達を大量投下できるという強みもあるため、困惑はしても恐怖心は薄い。
幽霊は死角となる階段から、ようやく姿を現した
姿を見た途端、何だか懐かしいような気分になり、顔が綻ぶ。
メアの目の前に居るのは、まさに消えたと思われていた七瀬 優珠本人だ。
メア自身、油断はせずともあまり乗り気ではなかったものの、タイミング的にも七瀬以外ありえない。
念の為、というか、ほとんど反射的にではあるが、彼女は『紫鏡』でもメアが大量に放出してしまったハリボテ達を、何でもないことであるかのように全滅させていた。
メアの弱点としてもう1つ。メアは一度起こした異変を取り消すことが出来ない。
これらをふまえた上で投下したのはメアにとって大きなミスだが、もしやって来たのが七瀬 優珠ではなく見知らぬ幽霊だと思うとゾッとする。
だから、そう。この選択は間違っていない。
心の中で誓い、改めて七瀬 優珠を見る。
それは、感動の再会とかそういうものではなく、どちらかと言えば怒っているような、怪訝そうな顔に見えた。
同時に、ある疑問が浮かぶ。
あの、横で宙に浮かんでいる小さな人形はなんだ?
見たところ、人形自体も「幽霊」に分類されるのだろうが、一体どういう関係なのだろう。
あらゆる情報が頭に入り込んできて、そろそろキャパオーバーだと言う時。
謎の掛け声をしたかと思うと、2人が少しずつこちらへ歩み寄ってくる。
異様すぎる光景に、メアは困惑が隠せない。
突然、七瀬はメアを追いかけ始めた。
それも能力を使うわけでもなく、素手で。
ただ本気で捕獲しようとしていることだけは、嫌というほど伝わっている。
メアは間一髪で七瀬の手を避けて、そのまま訳も分からず前へ進んだ。
このままいけば先程七瀬が上がってきた階段へたどり着ける。
だが、相手は既に大量のハリボテを綺麗さっぱり倒しきっている。
なら、ほぼ確実に身体能力は高い。そうなれば、この階段にさえ間に合わず、そうでなくとも階段で追いつかれてしまうだろう。
メアは生前病院生活だったこともあって、身体能力は低い。
やはり、能力を上手く使うしかないか。
メアはハリボテを出すと、近くに居るモノ達に呼びかけた。
ハリボテ達はメアの後方へと向かい、七瀬の前に立ちはだかる。
七瀬は不服そうに口を尖らせるが、気にしている場合ではない。
メアはすぐに階段へと走るが、後ろから最悪な音が鳴り続いている。
七瀬も迫り来るハリボテ達に怯えることはなく、むしろどこか楽しそうな声色でボコボコにしている。
メアは逃げながらも、ハリボテ達を呼び続けた。
そして階段、廊下、ホールへと少しずつ待機させておく。
おそらくだが、両者の身体能力を考えると、メアが七瀬を撒くことはまず不可能だろう。
それなら逃げ道がバレても、少しづつハリボテを利用して距離を取り続けるしかない。
たとえ全てのハリボテを倒されようが、再度大量のハリボテ達を出現させることが出来るので、ループしていけば、そのうち七瀬が諦めてくれる。
最後のはどちらかというとメアの願いでしかないが、体力勝負は何よりも苦手なので仕方ない。
逃げて、ハリボテを出して、妨害させて────3時間。
体力が底を尽きたメアは今、使われていない綺麗なゴミ箱の中へ隠れていた。
撒くことは不可能だと思っていたが、ハリボテ達がいい仕事をしてくれた。
彼らが七瀬の足止めをしながら、大量の足音を鳴らしたのだ。
指示すら出していなかったことなのでメアは驚いたが、すぐ死角だらけの道へルート変更し、ハリボテ全員を七瀬の居る階段の方へ向かわせた。
本来、幽霊はお互いの気配を察知できるのだが、ここはメアの病院。いわばテリトリーだ。存在など簡単に消せてしまう。
そして、そのゴミ箱のすぐ近くに七瀬は居る。
まだメアは彼女の能力を知らないが、ここまで執拗に追いかけてくるのに使用しないということは、今この場で役に立つ能力ではないのだろう。
問題は、一緒に居る人形。確か七瀬は『メリーさん』と呼んでいたか。
彼女の方が少し異様だった。能力の関係かは分からないが、七瀬と居るのに、何もしないのだ。────本当に何も。
会話が成立しているあたり、あの人形にも意思はあると思う。
────だけどそれなら何故、ハリボテと戦う七瀬を見ても何もしない?
それどころか、ハリボテからの攻撃をするする避けていく。
そこまで可能なら、少しくらい手助けしても良かったのでは、と困惑する。
だが、メアにとってはその方がありがたい。おかげで撒くことが出来たのだから。
正直、ゴミ箱の中は窮屈な上に、見つかった時に逃げ場がない。
焦って思わずこの中に入ってしまったが、早くも後悔している。
メアは緊張しつつも、七瀬の足音が聞こえなくなるまで待機する。
おそらく中央のホールへ移動したのだろう。すぐにゴミ箱のフタを開けた。
目の前に、あの人形が居た。
メアは驚いてしまい、思わず声を漏らす。
────メア、確保!
♢♢♢
なんだこいつ…
そう言うと、七瀬はゴミ箱の前で膝をつき、頭を床につけた。
3時間という貴重なものを奪われて、この程度で許すというのは気がひけるが、本当に反省しているのだろう。誠意だけは伝わってくる。
そう言いながら、メアはゴミ箱から出ようとした。
さすがのメアも狼狽えてしまう。この怯え方を見るに、家主は相当怖いのだろうか。
その名前は、メアにも聞き覚えがあった。
『紫鏡』でお世話になった、なんでも屋の少女の1人だ。
メアが思いを馳せていた男の言葉から出た、拒絶の言葉が蘇る。
メアにとっては苦い思い出だが、その時真っ先に味方をしてくれたのが、彼女だった。
そんな優しい子が怒ると、どんな姿に変貌するのか。
それは、聞くだけで背筋が震えるものだった。言葉にするのもおぞましい。
そう言うと、メアはゴミ箱から出て、生前自身の病室だった、204号室へ入っていった。
♢♢♢
30分ほど経った頃、メアが戻ってきた。
見ると、メアの手には先程までなかった紙が握られている。
「手紙」と聞くと、七瀬は別の都市伝説を思い出すが、今はそれどころではないのですぐ辞めた。
正直、意外だった
そう言って、七瀬は手紙の宛先に目を通した。
メアは、少し恥ずかしそうに言った。
七瀬は肩にかけていたポシェットに手紙を入れて、階段を降りた。
それについて行く形で、メリーさんとメアも玄関へと向かう。
改めて、七瀬は深々と頭を下げた。
いつも自由気ままなイメージがメアにはあったので、少し意外に思う。
2人は指を絡めて、約束を交わした。
七瀬はそのまま、外に出る。お別れの時間だ。
一緒に居た人形『メリーさん』は、何だか恥ずかしそうにうなずいた。
七瀬は言いにくそうに目を逸らした。
というか、それは少し恥ずかしそうにも見える。
それはさっきのメリーさんとどこか表情が似ていて、思わず吹き出してしまった。
七瀬はメアを一睨みしたあと、能力について教えてくれた。
自慢げに言うと、七瀬はメリーさんと一緒に顔を綻ばせた。
♢♢♢
七瀬 優珠とメリーさんが病室を出たあと、病室ってこんな寂しかったっけ、と疑問に思った。
そのままいつもの、204の病室へと戻り、窓を開けて心地よい昼風を浴びた。
今日は変に動いたこともあってか、特に気持ちが良くて、思わずため息がもれる。
メアは顔をゆがめ、心底そう思う。
だけど、それでも、新しい友人のような存在が出来たことは、嬉しくも思う。
メアは幽霊になってから話せる人間など居なかったので、今日のことは"ひとつの思い出"として捉えていたのだ。
七瀬も────子供すぎるけど、ちゃんと人の話が聞ける。友人としては十分すぎる存在だろう。
そしてそのまま、七瀬に渡した手紙を思い出す。
それは、メアの生前の話。
最後から1つ前の病棟で、メアは友人が2人も出来たのだ。
友人とはいっても直接話したのは一度だけで、以降は2人にそれぞれ手紙を送りあっていた。
今回七瀬に送ってもらう手紙は、その内の1人に宛てたもの。
もう1人の友人は、メアを覚えていない。
────だから、あの病院で復讐の協力をしてもらったのだ。
あれは、ほんのやり返しのつもりだった。
だけどメアは、今日の七瀬よりもずっと重い罪を犯した。
メアはその子に会っても、謝って許しを乞うことしか出来ないだろう。
ただ、それで許されることはない。
というか、この先メアが何をやっても、やってしまった失敗が彼女に許されることはないのだ。
コレの続きは、ネタ自体はあるのでいつか出します
ただそれより先に、「なんでも屋」×暗雲低迷サブキャラの絡みをどんどんあげていくので、閲覧者様が居れば気長にお待ちください😭✨
ちなみに、メアちゃんの罪を犯した女の子は別に居て、陽菜ちゃんは手紙を宛てた人物の方です!!
実はここも関係値作る予定だったので、良かったら考察してみてください🙇♀️
あとあと!メリーさんの能力出ましたねー!!
『能力が効かない能力』なんですけど、どっちかって言うと体質とかそっち系に近いイメージです!
メアの病院だから幽霊の気配を消していたつもりが、そもそも能力が効いていないのでガッツリ気配感じちゃってます笑
また、メアが言ってた「奇妙な行動」ってのもこれに関係してます!!
七瀬とハリボテの戦いで何もしていなかったのも、ハリボテからの攻撃をするする避けていたのも、そもそも能力が効いていないから見えていない、というしょーもないオチです
「避けていた」というのはあくまでメアからそう見えているだけで、実際は当たっていようが効いていないのですり抜けている感じです。メリーさんからはハリボテなど見えていないので終始困惑だったことでしょう。可哀想に
とりあえずなんか充電1パーなので失礼します!ここまで閲覧ありがとうございました😭🙏🏻


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!