第3話

第三章:追跡者
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2025/06/08 11:00 更新
廃工場に夜が深く降りてきた。
外の空気は冷え込み、鉄骨の軋む音がわずかに響く。

その静けさを、割ったのは「ノイズ」だった。

──ザッ、……ピー……こちら、第2班。廃棄地区に……反応アリ。
──……距離10キロ圏内。対象A、Bの追跡再開。

 

ヒョンジンは古びたトランシーバーを手にして眉をしかめた。
拾った無線機に流れてきたのは、間違いなくあの施設の通信だった。
HJ
HJ
……もう動き始めてる
BC
BC
予想より早いな

バンチャンは何も驚いた様子を見せず、壁に貼っていた手描きの地図を外した。
周囲のルートと建物の配置を書き込んだものだ。何日もかけて作った、2人にとっての“脱出ルート”。

「移動する?」とヒョンジンが聞いたが、バンチャンは首を振った。
BC
BC
まだ早い。奴らはこっちの“選択”を待ってる。動けば、それに反応して包囲される
HJ
HJ
……くそ。なんで、いつも先回りされてんだよ
BC
BC
……俺たちは“観察される側”だったからな
その一言が、空気を変えた。
ヒョンジンは、言葉を飲み込んだまま目をそらす。

──観察。記録。調整。
被験体番号A001、A013。
誰も彼らを「人」として扱ってはいなかった。

 

ヒョンジンは、一人で工場の倉庫奥へ向かった。
無意識に足が向かったのは、あの“鉄の戸棚”──2日前に見つけて封をしていた場所だった。

古びた南京錠を蹴破り、中を開ける。
そこにあったのは、書類の山。
劣化した紙とUSB。コードの切れ端。薬剤容器。

彼は一枚の報告書を手に取り、声を出さずに読んだ。

> 【報告:第4段階遺伝子反応】 被験体A013(イタチ型)はストレス下において、感情変化による神経伝達の異常活性を示す。
被験体A001(オオカミ型)との接触時にのみ安定。
統合観察を継続する。
HJ
HJ
……
背筋が冷たくなった。
これは偶然じゃない。俺たちの関係すら、“管理されてた”ってことか。

 

戻ってきたヒョンジンは、バンチャンに向かって言った。
HJ
HJ
なあ、お前、前から知ってたのか?
バンチャンは、目を閉じた。
BC
BC
……知ってた。でも、お前には言いたくなかった
HJ
HJ
なんで
HJ
HJ
お前は、自分で自分の意味を探せるやつだからだ
ヒョンジンは黙っていた。
でも、その沈黙の中には確かな“怒り”があった。
自分の命や感情さえ、他人に計算されていたという現実に。
HJ
HJ
……なあ。もし俺たちがまた捕まったら、もう同じ檻には入れられないかもな
BC
BC
なら、捕まらないだけだ
HJ
HJ
よく言うよ、ほんと
2人は、いつものように笑い合うわけでも、軽口を交わすでもなかった。
けれどその言葉には、確かな“対等”があった。

もう、守られる側でも、守る側でもない。
一緒に、戦う。そう決めた目だった。

 

バンチャンが最後に呟いた。
BC
BC
……明日の夜、月が満ちる。そろそろ、本能が騒ぎ出す

ヒョンジンの目もまた、金の色を帯び始めていた。

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