廃工場に夜が深く降りてきた。
外の空気は冷え込み、鉄骨の軋む音がわずかに響く。
その静けさを、割ったのは「ノイズ」だった。
──ザッ、……ピー……こちら、第2班。廃棄地区に……反応アリ。
──……距離10キロ圏内。対象A、Bの追跡再開。
ヒョンジンは古びたトランシーバーを手にして眉をしかめた。
拾った無線機に流れてきたのは、間違いなくあの施設の通信だった。
バンチャンは何も驚いた様子を見せず、壁に貼っていた手描きの地図を外した。
周囲のルートと建物の配置を書き込んだものだ。何日もかけて作った、2人にとっての“脱出ルート”。
「移動する?」とヒョンジンが聞いたが、バンチャンは首を振った。
その一言が、空気を変えた。
ヒョンジンは、言葉を飲み込んだまま目をそらす。
──観察。記録。調整。
被験体番号A001、A013。
誰も彼らを「人」として扱ってはいなかった。
ヒョンジンは、一人で工場の倉庫奥へ向かった。
無意識に足が向かったのは、あの“鉄の戸棚”──2日前に見つけて封をしていた場所だった。
古びた南京錠を蹴破り、中を開ける。
そこにあったのは、書類の山。
劣化した紙とUSB。コードの切れ端。薬剤容器。
彼は一枚の報告書を手に取り、声を出さずに読んだ。
> 【報告:第4段階遺伝子反応】 被験体A013(イタチ型)はストレス下において、感情変化による神経伝達の異常活性を示す。
被験体A001(オオカミ型)との接触時にのみ安定。
統合観察を継続する。
背筋が冷たくなった。
これは偶然じゃない。俺たちの関係すら、“管理されてた”ってことか。
戻ってきたヒョンジンは、バンチャンに向かって言った。
バンチャンは、目を閉じた。
ヒョンジンは黙っていた。
でも、その沈黙の中には確かな“怒り”があった。
自分の命や感情さえ、他人に計算されていたという現実に。
2人は、いつものように笑い合うわけでも、軽口を交わすでもなかった。
けれどその言葉には、確かな“対等”があった。
もう、守られる側でも、守る側でもない。
一緒に、戦う。そう決めた目だった。
バンチャンが最後に呟いた。
ヒョンジンの目もまた、金の色を帯び始めていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。