第81話

-悪夢の始まり- 一
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2023/04/30 14:59


夜。
寝付けない夜がやって来た。

最近夜は監視付きで外で風に当たっている。外にいる時はしんどさが幾分かマシになるから。
護衛の兵士には、毎晩連れ回してばかりで申し訳ない。

庭園らしき場所で見つけた長椅子に腰掛け、空を見上げた。

アルマ、ちゃんと生きているだろうか。
いや死んでいるとは思っちゃいないが、ハク達は行動を制限されているだろうから、あの子もあまり動き回れてはいないだろう。
体を壊さないでいて欲しい。



ふと、背後に人の気配を感じた。

護衛の兵士では無い。
一人……いや、二人か。

警戒心を高め、バッと後ろを振り返った。




スウォン
っ!……身体、冷えますよ
シーラ
ス、ウォン……!


私が突然振り返ったからか、驚いた表情を浮かべたスウォンの姿があった。



少し遠くにもう一人、居るねぇ。
背筋にビリッと走るくらい並々ならぬ気配。ただの衛兵じゃない。
流石、国王直属の護衛というところか。



一瞬、身体がこわばった。



その護衛にも、スウォンに対しても。





シーラ
…夜の散策の邪魔したかい?なら退くよ
スウォン
っいえ、大丈夫です……お隣、よろしいですか?


そう言って腰を上げると、スウォンはそれを止めた。
なんとなく、退こうとした私を引き留めようとしている気がした。
行かないで欲しい、というように。




……いいや、真逆まさか。気の所為せいだね。




シーラ
…構わないよ
スウォン
ありがとうございます


彼は1人分の間を空けて私の横に座った。



シーラ
私が夜な夜な外に出ているのを聞いて来たのかい?
スウォン
その報告は受けていました。ですが、止めろという警告の意味で来たのではありませんよ
シーラ
はは、それは分かるさ。そんなこと言う為に態々わざわざ一国の王がやって来るわけない
スウォン
……さぁ、どうでしょうか


静かに吹く夜風が、二人の髪で遊んでいる。

その所為で、髪に隠れて今のスウォンの表情が読み取れなかった。



シーラ
……じゃ、何しに来たんだい?
スウォン
貴女が此処に来てから話したことがなかったので……少し、お話したいと思って


そう言う彼は少し笑みを零していた。

懐かしい。



シーラ
……そんな笑い方してたっけねぇ
スウォン
…ふ、どういう笑い方です?
シーラ
うーん、言葉にするのは難しい…


その少しの笑みでさえ、愛していた記憶がある。



意外と取り乱すことなく話せている。
なんとかこのままの状態を保ちたい。




シーラ
何か、聞きたいことあるかい?
スウォン
それは、まぁ、沢山あります
シーラ
はは、だろうねぇ。素直
スウォン
沢山ありますけど…今は一つだけ聞かせてください


スウォンは私に目線を合わせ、こう聞いた。



スウォン
何故、貴方が五龍であることを教えて下さらなかったのですか?
シーラ
!……


その問いに、私は小さく目を見張った。



………其れを、貴方が聞いてしまうのか。

そんなの、理由は一つしかないだろ。




シーラ
……あんたが、緋龍王を憎んでいたから
スウォン
…っ!


その一文だけで、聡い彼は全て察したようだ。



ギアロの一族が殺された発端は、当時の国王が緋̀龍̀王̀の̀一̀族̀の̀者̀に王座を奪われるのを恐れたから。

彼らが緋龍王の子孫でなければ、あのような悲劇は起こらなかったのかもしれない。

緋龍王の子孫でなければ。普通の人間であれば。
…………緋龍王が居なければ。

口に出したことはあまり無いが、ギアロが緋龍王を憎んでいるということは一緒に居て感じた。



そんな彼に、自分が五龍だと伝えたら。



シーラ
本当は伝えるつもりだった。でも、あんたの事情を聞いちまったら……言うのが怖くなった
シーラ
一族の仇と憎まれるのが怖かった
シーラ
あんたが私の傍から離れていくのが怖かった


でも、何より、



シーラ
……あんたに、"化け物だ"と罵られるのが、怖かった
スウォン
……っ


スウォンは口を挟むことは無かったが、私の一言一言に対し表情が暗くなっているのは分かった。
私に対し申し訳なく思っているのか、後悔しているのか。



それとも、当時の自分が、私が五龍であることを知ったら、と想像しているのか。



シーラ
だが今でも後悔しているよ。あんたに正体を告げなかったこと
シーラ
そうすりゃあの時、あんたを死なせずに済んだかもしれない
スウォン
……え


言葉を零し続ける口はもう閉じることができない。

スウォンが聞いていないことまで話してしまいそうだ。



シーラ
あんたが正体を知って私を受け入れようが拒もうが、ちゃんと話していたらあんたの前で龍の能力を使うことを躊躇わなかっただろうねぇ
シーラ
……あぁ、そうでも無いか
シーラ
話したとしても使えるわけないか。ははは、最近普通に使っていたから忘れてたよ
スウォン
シ、シーラ……?


周りの音なんて聞こえない。

狂ったように私は言葉を編み出す。



あの日、城の追手が家を襲撃した時、仮に私が力を使うことに躊躇いが無かったとしても使̀う̀こ̀と̀は̀で̀き̀な̀か̀っ̀た̀。

何故なら、



シーラ
私̀の̀能̀力̀は̀、緋̀龍̀王̀の̀為̀だ̀け̀に̀し̀か̀使̀え̀な̀い̀か̀ら̀ね̀ぇ̀!








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