第5話

後編 恋の、練習相手。
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2026/01/24 12:00 更新
高校に入学して、最初に目に入ったのが
隣の席のあなただった。

教室の窓際、まだ少し緊張した顔で座っていて、
春の光がその横顔だけをやけに柔らかく照らしていた。


一目で分かった。好きになるって。


3人で話すようになったのは、自然な流れだった。

サンヒョナは明るくて、場の空気を動かすのが上手い。
あなたはそれを受けとめて、ケラケラと楽しそうに笑う。

おれはそんなあなたの横顔を眺めているのが好きだった。



放課後、帰り道を3人で歩く。

サンヒョナが前を歩き、
無邪気な声で新しいクラスの話をする。

おれとあなたは少し後ろから、サンヒョナを追いかける。
ふと横を向いて、風に揺れるあなたの髪が柔らかく光るのを見たとき、

胸の奥が、言葉にならない熱で満たされていくのを感じた。



ある夕方、たい焼きを両手に持って座る公園のベンチ。

サンヒョナが隣で空を指さし、彼女がそれに楽しそうに応じる。


おれは隣に座りながら、
2人の声を少し離れたところから聞いているみたいな気分でいた。

あなたの横顔が夕焼けに染まる。

その横顔が綺麗すぎて、目を逸らせなかった。



――ああ、好きなんだ。

恋は、音を立てずに落ちてきて、
気づいたときには、もう逃げられない場所に沈んでいた。



3人で過ごす時、サンヒョナはいつもその中心で輝いている。

本人はただ自然体なだけなのに、
光を放つ人は、自分の眩しさを自覚しない。

彼女の視線が彼に向くたびに、

指先がベンチの縁をそっと掴む。

——それが、おれの静かな独占欲。



それでも、この楽しい毎日がいつまでも続いて欲しくて、気持ちを胸の奥に閉じ込める。




その願いが自分をいちばん傷つける選択になるなんて、思いもしなかった。

あの日あんな言葉を言われるまでは。



「"練習相手"になってほしいの。」

その言葉は静かに心臓を貫いた。

でも彼女の瞳は真剣で、それ以上何も言えなかった。


씬롱
……いいよ。練習、手伝う。



練習と称して出かけた2人きりの“デート”の日。

映画館の暗闇の中、光に照らされた彼女の横顔ばかりを見ていた。

スクリーンの中の恋人たちが近づくたび、
鼓動が速くなる。


「……少し、疲れちゃったかも」

でも、あなたは途中で小さく欠伸をして、
肩に頭を預けるように眠り込んだ。

あなたには、おれと見る恋愛映画なんてつまらなかったのかな。



静かな寝息。細い指先。

そっと手を伸ばす。触れてしまえば、
きっと二度と戻れない。



指先が彼女の手の甲の、ほんの少し手前で止まる。

これは“練習”。

君の心は、おれの方なんて向いてない。



それでも、欲張りになってしまう自分が嫌だった。




「私、サンヒョナのことが……好きです。」

あなたは珍しくおれを真っ直ぐ見つめて、
違う人の名前を呼ぶ。

「合格だよ」

その一言を言えば、君はきっとすぐおれの前から姿を
消してしまうんだ。



だから何度も理由をつけて、練習を延ばした。

少しでも長く、君の隣にいたかった。



そして、遂にやってきてしまった、その日。


「サンヒョナと、付き合うことになったよ。」
メッセージがやけに重く、心にのしかかる。

씬롱
……あなたが頑張ったからだね。おめでとう。

震える手を何とか押さえ付けて、
やっとの思いでそう返信した。

写真アプリを開くと、嫌でも目に飛び込む、
3人で撮った写真に、彼女が笑っている写真。



指先が迷って、少しだけ滲んで、

それでも、全部消した。


——君の恋を叶えるために、
おれの恋はごみばこに沈んでいく。

練習相手という残酷な役目も、きっと今はもう、

ごみばこの中にいるんだ。



End.

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