アンシンとは、物心つく前から一緒にいた。
学校へ行く道も、公園のブランコも、
年に一度の夏祭りも、言葉なんていらないくらい、
隣にいるのが当たり前の存在。
その関係は、一生変わらないものだと思っていた。
高校に入った春、
私たちは揃ってバスケ部へ入った。
アンシンはプレイヤーとして、
私はマネージャーとして。
2人で踏み出す、新しい日々。
素晴らしい高校生活になると信じて疑わなかった。
でも、いつからか少しだけ違和感が生まれた。
思い出を語り合うたび、
私の中の記憶と、アンシンの記憶が微妙に食い違う。
「……繋いだよ。あなた、怖いって泣いてたろ。」
アンシンは笑いながら言うけど、
私はそんな場面、どうしても思い出せない。
私が冗談めかして笑うと、その瞬間、
彼の表情がほんの少しだけ陰った。
「……盛ってないよ」
低く抑えた声。
だけど説明は、そこから先へ続かない。
会話の端々で刺のように残る沈黙。
問いかけても、
「別に。あなたが鈍いだけ。」
と素っ気ない返事。
表情はほんの少しだけ寂しそうで、
だけど彼はそれ以上、何も語らなかった。
部活終わり、私はタオルを畳みながら弾む声で
アンシンに話しかけた。
思い出すだけで嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
胸の奥が温かくなる。
私はただ、その喜びを共有したかった。
けれどアンシンの表情はわずかに歪む。
「……ねえ、あとで少し、時間ある?」
低い声だった。
「話したいことがある。」
——その日、私は体育館裏に呼び出された。
夕暮れの影の中、アンシンは壁に手をついて俯く。
「僕のこと、いつまで幼馴染で誤魔化すつもり?」
顔を上げた彼の瞳には、焦りと苛立ちが滲んでいた。
余裕なんて、どこにもない。
「僕はずっと、男として見てほしいって、
思ってるのに。」
一歩、踏み込まれる。
「なあ、答えて。僕のこと……"もう"好きじゃない?」
逃げ場を塞ぐような迫り方だった。
それでも、嘘をつくことだけはできなかった。
「……それ、本気?」
沈黙。
冷たい風が二人の間を通り抜ける。
「……それなら、もう隣にいる理由なんて無いよな。」
その言葉は決定打だった。
私は何も返せなかった。
ただ、黙って視線を落とすしかなかった。
私たちは同じ場所にいながら——
少しずつ、隣にはいられなくなっていった。
アンシンとの距離が空いていくのに比例して、
ジアハオ先輩と話す機会が増えていった。
まっすぐで、嘘がなくて、
言葉より行動で示してくれる人。
あの穏やかな背中に惹かれて、
私は勇気を出してアタックした。
そして――奇跡みたいに届いた。
「あなたちゃんのこと、好きになってた。
よければ、俺と付き合ってほしい。」
胸の奥が熱くなる。
世界がやっと前に進んだ気がした。
放課後の校門前。
灰色の空、まだ寒さの残る風。
目の前にはアンシンが気だるそうに立っている。
「何?あなた。」
深呼吸してから、私は言った。
「……そう。良かったじゃん。」
それだけ言って、彼は私に背を向ける。
私はアンシニの背中が小さくなっていくのを、
追いかけることもせず見つめていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。