※注意
本話には震災・死別を描写する場面があります。
苦手な方は閲覧をお控えください。
ゴヌが、私の前に現れたのは、
特別な日でも、運命的な場面でもなかった。
大学の講義といつものバイトを終えて、
自宅までのいつもの道を歩いていた夜。
コンビニの明かりの下で、
パーカー姿の背の高い男が、立ち尽くしていた。
「……あの」
声をかけられて、足を止める。
年上にも見えるし、年下にも見える。
整った顔立ちなのに、どこか遠い目をしていた。
「ここ、○○町で合ってますか。」
それだけの会話なのに、
彼は少し安堵したように息を吐いた。
「よかった。」
まるで、ずっと探していた場所に辿り着いたみたいに。
それが、ゴヌとの出会いだった。
行くあてがない、と彼は言った。
携帯も使えなくて、今日は泊まる場所もない、と。
普通なら、警戒する。
断る理由はいくらでもあった。
それなのに私は、
なぜか彼を放っておけなかった。
そう言って、
自分のアパートの鍵を開けてしまった。
ゴヌは、驚くほど礼儀正しかった。
靴を揃えて、部屋に入る前に一瞬、
何かを噛みしめるような顔をした。
「ありがとうございます。」
その声が、少しだけ震えていたことを、
私は見逃してしまった。
そうしてゴヌとの同棲生活は、
始まったというより、気づいたらそうなっていた。
食卓を挟んで向かい合う時間が増えて、
同じソファでテレビを見るようになった。
距離は、確実に近づいているのに。
ゴヌは、
一線を越えることは、決してしなかった。
夜遅く、
私がうたた寝をしてしまったとき。
目を覚ますと、
ゴヌは少し離れた場所で、私を見ていた。
呼ぶと、彼はすぐに視線を外す。
「ごめん、起こしたよね。」
その声は、悲しいくらい、優しかった。
数日一緒に過ごすだけで、
私は彼に惹かれてしまっていた。
勇気を出して聞いた夜。
ゴヌは、しばらく黙ってから言った。
「大切にしたい人。」
それだけ。
問いかけると、
彼は困ったように笑った。
「……それ以上は、だめなんだ。」
理由は、教えてくれなかった。
ゴヌが来て、ちょうど一週間が経った朝。
目を覚ますと、ゴヌの姿はなかった。
部屋は、来たときと同じように整えられていて、
まるで、最初から存在しなかったみたいだ。
連絡先も、行先も、何もかも知らない。
ゴヌは私の前から忽然と姿を消した。
そんな直後に出会ったのが、
大学の一つ年上の、ジュンソ先輩だった。
真っ直ぐで、親切で優しくて、
感情を丁寧に言葉にしてくれる人。
「あなたちゃん、好きだよ。」
「僕と、一緒にてほしい。」
迷いのないその言葉に私は少しずつ救われ、
ゴヌの記憶は薄れていった。
それなのに。
夜、ふとした瞬間に思い出す。
期限付きの、あの一週間。
——未来で、
二度と会わないためだったなんて。
このときの私は、思いもしなかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。