第29話

買い出し
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2026/04/05 11:31 更新










 大粒の雨が降る、憂鬱な日の午後。





 今日は学校が半日で、早く家に帰ることができた。





 昔からそうだが、
 学校が午前で終わる日は、
 休日よりも幸せな気分になる。





 今日は出かける予定もないし、
 家でゆっくりできそうだ。







 しかし、私がリビングでボーっとテレビを眺めていると、
 廊下の向こうからモリヒトの声が響いた。






モリヒト
あなた、悪いんだが……。
今日の買い出し、俺の代わりに行ってくれないか?








 その声に私は一瞬、目を丸くする。




あなた
――え、モリヒトが頼むなんて珍しいね。





 ニコの使い魔――モリヒトは、完璧超人だ。





 料理も家事も、全てを一人で完璧にこなす。





 しかし、申し訳なくなって私が手伝おうとすると、
 すぐに断るほど、こだわり強い。






モリヒト
ああ。
今日、ニコが駅近くの和菓子屋に行きたいらしくてさ。
少し遠いから、買い出しの時間がなさそうでな。





 そんな彼が、他人である私に頼むなんて、
 よほど大切なことなのだろう。






 私は自然と頷き、置いたリモコンを手に取った。





あなた
――わかった、何を買えばいい?






 モリヒトは、
 買い物リストと書かれた、
 小さなメモを差し出す。





モリヒト
基本は書いてある通りに買ってくれればいい。
すまんが、頼むぞ。
あなた
――わかった。
これ見れば大丈夫だね。







 メモを手に取り、私はリストをざっと確認し、
 傘を持ってスーパーへと出かけた。





 私がいない間の護衛が心配だが、
 モリヒトが居るなら大丈夫だろう。






 彼は強い。





 安心して、背中を預けられる――
 そう思いながら、足を進めた。










 スーパーの自動ドアを抜けると、
 雰囲気は"戦場"へと様変わりした。






 そういえばモリヒトから聞いていたが、
 今日はスーパーの特売日らしい。






 目の前には、
 大勢の主婦が特売品を我が先にと取り合っており、
 所々人の波に押される悲鳴が耳に入ってくる。






 モリヒトに買い出しを頼まれた食材は、
 小さなメモを隙間なく埋め尽くすほどの量だった。





 しかも「特売品は最優先で」と書かれているせいで、
 私はあの人混みの中に突っ込まなければならない。






 私は大きなため息をつきながらも、
 小さな背丈を生かして人ごみのなかに紛れ込んだ。






 ただでさえ小さい体を生かし、
 人々の間をすり抜けながら商品をかごに入れていく。






 しかし、前方では主婦たちの戦争がまだ続いていた。






 彼女らの間に滑り込み、
 一瞬の隙を狙って手を伸ばすが、
 すぐに別の手が目の前の品物を持ち去っていく。





主婦
これは私のよぉォォォォォォ!!!




 ――しかし、奥に埋まっていた品物を無理やり掘り出し、
 すぐに特売コーナーを後にした。





 呪霊や呪詛師と戦ったわけではないのに、
 手や体は汗と雨でずぶ濡れだ。






 実際にこういう戦いを経験すると、
 母の強さを思い知ってしまう。






 ようやくの買い物リストの食材でカゴを埋め、
 レジまでたどり着く。






 戦場を抜け出した私の体は、
 もうすでに悲鳴を上げている。





店員
本日は雨の日なので、
ポイント2倍で付けさせていただきます!
あなた
あ、ありがとうございます……。





 袋詰めを終え、
 両手に戦利品を抱えながら、家路へ向かう。





 疲れで足は重いが、達成感はある。






 ただ、もうやりたいとは思わない。





 もう、あの戦場は懲り懲りだ。





 私は主婦ではなく、
 呪術師として、
 呪いを祓っていた方がいいのかもしれない。





 そう頭に浮かべながら、
 やけに重い帰り道を歩いた。







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