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第14話

第十二話 決着
316
2024/06/23 22:39



 〜阿部Side〜






 『…お前の大好きな、殺し合いをしよっか?』




 俺がそう言うと、翔太の視線がさっきよりも刺さってきた。


 あ、目黒戻ってきてるな、この感じ。

 このまま佐久間と交戦するってなると翔太は邪魔になるし、目黒に連れてってもらおっと。
渡辺翔太
渡辺翔太
ちょ、待てよ阿部っ……

 ついに我慢出来なくなったのか、翔太が話に割り込んできた。
 
 不安気に揺れる瞳を見て愛しいと思ってしまうのは不謹慎かな?まあ、どんな表情でも可愛いと思ってしまったが最後だよね。
 なんて一人で納得してる間にも、翔太は一生懸命俺を止めようと話しかけてくる。



 でもごめんね、翔太。






阿部亮平
阿部亮平
これしか道はないんだ。
………目黒、翔太を連れて行って
目黒蓮
目黒蓮
……分かりました。行くよ、翔太君



 躊躇うかも、って思ってたけど意外とすんなり言うことを聞いてくれた。まあ、こんな特殊な状況だけどここは会社だからね。俺がルールだし。
渡辺翔太
渡辺翔太
…おいっ、阿部!
阿部亮平
阿部亮平
……ん?
渡辺翔太
渡辺翔太
…………勝手に死んだら、許さないからな
阿部亮平
阿部亮平
…ふふ、分かった。必ず生きて戻るよ



 この言葉が、嘘にならないといいな。




 そんな、叶うかどうかの保証も無いような願いも込めて、一瞬だけ二人の方を見て微笑んだ。その一瞬で合った目黒の瞳に、全ての思いを込める。







"翔太を、お願い"







 思いが伝わったのか、目黒は深く頷いて翔太とオフィスを出て行った。





阿部亮平
阿部亮平
さて、佐久間……終わらせようか
佐久間大介
佐久間大介
そうだね、阿部ちゃん








 〜渡辺Side〜





 
渡辺翔太
渡辺翔太
おいっ、おい待てよ目黒!
目黒蓮
目黒蓮
………………





 ずっと無言で手を引かれる。身長は目黒の方が大きいとはいえ、俺だって武術をかじってる身なのに、この力の差は何だよ……

 最早引きずられてるって言っても過言じゃない構図じゃない?会社に誰も居ないのは阿部か佐久間の策略なのかもしれないけど。


 阿部の様子が気になって何度も振り返るけど、オフィスの扉は遠ざかるばかり。
 
渡辺翔太
渡辺翔太
おいってば…って、あ…ふっか…!
深澤辰哉
深澤辰哉
んあ、なべじゃん

 壁に寄りかかるようにして座っていたふっかが立ち上がって俺の所に駆け寄ってきた。ちゃんと自分の足で立ち、意志を持った瞳で俺を捕らえている。



 
渡辺翔太
渡辺翔太
もう、大丈夫なのかよ…?
深澤辰哉
深澤辰哉
おう。って、ちょ、秘書君なんでなべの事引きずってんの?



 やっぱりそう見えるよな?ほら、って言わんばかりに掴まれている手を振ると、目黒は渋々俺の腕を離した。
目黒蓮
目黒蓮
まあ、はい。色々ありまして
深澤辰哉
深澤辰哉
ふーん?今のこの状況と関係ある感じ?
渡辺翔太
渡辺翔太
ん、まあ……
深澤辰哉
深澤辰哉
俺は佐久間に何されたわけ?何でこの状況になってんの




 ふっかに鋭い視線を向けられて、どう反応していいか分からなくなる。ここで全部言っちゃうのが正解なのか?でも、今更感がすごいんだよな。

 なんてぐるぐる考えてたら、刺さるような視線が目黒から飛んできた。
目黒蓮
目黒蓮
……翔太君って、深澤君と仲いいんじゃないの?
渡辺翔太
渡辺翔太
まあ、それなりに長い付き合いだけど……
目黒蓮
目黒蓮
言ってないんだ?
渡辺翔太
渡辺翔太
………………
深澤辰哉
深澤辰哉
なあ、言ってよ翔太。今更俺に隠し事とか通じねーから



 ちらっと目黒の方を見るが、ただじっとこっちを見てるだけ。腹をくくるしかないか…





渡辺翔太
渡辺翔太
…分かったよ。全部話す。俺の事も、阿部達の事も



 そこから10分くらいで端的にではあるけど話をした。途中で何回か質問が入ったりもしつつ、全て正直に話した。

 勿論、阿部や目黒、佐久間の事は俺から言わないほうがいい事もあるだろうし、言葉は濁したりはしたけど、嘘は誓ってついてない。


 俺が全て伝え終えて、ふっかは俯いてしまった。
深澤辰哉
深澤辰哉
…………
渡辺翔太
渡辺翔太
…流石に、信じられない?



 話があまりにも現実離れしすぎているよな。世間を今一番騒がせていると言っても過言ではない殺し屋が、自分の働く会社の社長なんて夢にも思わないだろう。


 ましてや、人当たりの良さそうな"あの"阿部なら尚更。

 よく、人を見た目で判断するなと言われるよな。

 でも、人の第一印象は会って3秒で決まるらしいし、その3秒の内に判断できるのは全部視覚からの情報だから、どんな偏見を持っていても仕方ないんだよ。
深澤辰哉
深澤辰哉
……お前さ、それをずっと隠し続けてきたのかよ?
渡辺翔太
渡辺翔太
まあな。何なら涼太に話してない
深澤辰哉
深澤辰哉
舘さんにも?そっ、か…でも、こんな状況とは家教えてくれてありがとな?
渡辺翔太
渡辺翔太
は…?
深澤辰哉
深澤辰哉
こんだけのデカい秘密、隠し通すの大変だったろ?これからは本当に隠し事無しだかんなお前
渡辺翔太
渡辺翔太
こんな変な話…信じてくれるのかよ
深澤辰哉
深澤辰哉
まあ、今の状況がそれを物語ってるし、何より…お前がそんなに上手い嘘をつけるって考えにくい
渡辺翔太
渡辺翔太
おま、失礼だな!



 その通り過ぎて言い返せないのが悔しいけど、こいつほど本来の俺を知ってる奴なんていないと思う。
 涼太とも長い付き合いだけど、ふっかの方が大人になってから長く一緒にいるし。
深澤辰哉
深澤辰哉
で、今2人はどこにいんの?
渡辺翔太
渡辺翔太
えっと、戦ってる。俺たちたがいたオフィスで
深澤辰哉
深澤辰哉
は…?行かなくていいのかよ?
渡辺翔太
渡辺翔太
行くべきなんだろうけど、俺の出る幕なんて無いから



 どうせ行ったって阿部の邪魔になるだけだろうし。行くだけ時間の無駄だろう。
深澤辰哉
深澤辰哉
じゃあせめて、終わった時にすぐ駆けつけられるように近くにいれば?
渡辺翔太
渡辺翔太
だって阿部が勝てるとは限んないんだぞ!
深澤辰哉
深澤辰哉
えっ………




 同意を得るように目黒の方を見ると、目黒も渋々頷いた。やっぱりそうなんだよ。それだけ、佐久間は手強いんだ。


目黒蓮
目黒蓮
社長も強いとはいえ、ランキングはまだ2位。に対して佐久間君は何年にも渡って1位の座に君臨し続けてきた男です
深澤辰哉
深澤辰哉
そうなのか……
目黒蓮
目黒蓮
……多少前線から退いたブランクがあっても社長との差は歴然。苦しい戦いになる事は避けられないと思います
渡辺翔太
渡辺翔太
………………
目黒蓮
目黒蓮
でも、あの時の社長は死にに行くような目では無かったと思いますよ
渡辺翔太
渡辺翔太
…どういう意味?
目黒蓮
目黒蓮
あの人はやる時はやる人です。尚更、今回は翔太君の存在が関わってる…負けるつもりは無い、そんな意志を持って行ったんじゃないですかね



 目黒は、きっと誰よりも1番近くで阿部を見てきた人だ。俺なんかより、目黒の方が阿部を理解してる。
 目黒がそう言うなら、俺は阿部を信じるしかない。
渡辺翔太
渡辺翔太
分かった、行こう
深澤辰哉
深澤辰哉
お!さっすが!



 悩んだ末、行くことに決め、3人でさっきのオフィスまで戻った。扉の前まで来て、ある違和感に気付く。
深澤辰哉
深澤辰哉
……なんか、静かじゃない?
渡辺翔太
渡辺翔太
だよな、俺も思った

 オフィスからは何の音も聞こえてこない。扉を隔てているにしても異様なほど無音だった。
目黒蓮
目黒蓮
……開けてみますか。俺が先に入ります。翔太君と深澤君は俺の後に続いてください
渡辺翔太
渡辺翔太
…分かった



 オフィスの扉に手をかける目黒を、ふっかと後ろからじっと見つめる。ピリつくような緊張感の中、鈍い音を立てて扉が開いていった。





 そーっと目黒の後ろから中を覗くと、元のオフィスとは思えないほどに机や椅子が散乱していて、まるで原型が無い。


渡辺翔太
渡辺翔太
………酷い有り様だな…
深澤辰哉
深澤辰哉
……本当に俺らがいたオフィス?
渡辺翔太
渡辺翔太
……だろうな




 証明が落ちたのか薄暗くなっているオフィスに、ただ一人、ぽつんと立っていたのは阿部だった。

 こちらに背を向けて立っていて、どんな表情をしているのか分からないのが、怖くて仕方ない。
目黒蓮
目黒蓮
……佐久間君は見当たりませんし、行っても大丈夫そうです



 目黒からの許可を待って、オフィスに足を踏み入れた途端、重りを両肩に乗せられたみたいに体が重くなって、足が動かなくなった。

 そして、それと同時に鼻を刺すような生臭い血の匂いを感じた。それが佐久間のものなのか、阿部のものなのかは分からないけど、多分相当な血の量だと思う。
渡辺翔太
渡辺翔太
な、あ…阿部……



 無理矢理足を動かして、手を伸ばせば届く距離まで来れた。
 さっきまで着ていたはずのジャケットはどっかいってて、ワイシャツを腕を捲って着ていた。そのワイシャツもあちこち破れてるし、汚れてるし、血も付いてる。

 文字通りの「死闘」だったんだろうなって察した。





阿部亮平
阿部亮平
…あぁ、翔太。…入ってきちゃったの?
渡辺翔太
渡辺翔太
………あ、べ…?



 ゆっくりと振り返った阿部は、今まで見てきた阿部とは全く違う空気を纏っていた。


 冷たくて、鋭くて、なんとも言えない嫌悪感が全身に突き刺さるような、そんな雰囲気を醸し出してる。



 そんな阿部が怖くて仕方なくて、咄嗟に顔を逸らした。きっと、目が合ったら視線で射殺されてしまうんじゃないかって思うほどに怯えていたから。



 下を向いてぎゅっと目を瞑っていると、頭上から阿部の声が降ってきた。最早それすらも圧を感じる。
 体の震えが止まらなくて、今すぐにでも引き返したいほど、阿部の存在を全身で否定している様な感覚。





 
阿部亮平
阿部亮平
…………ねぇ翔太




 
渡辺翔太
渡辺翔太
な、に……






阿部亮平
阿部亮平
……………俺が怖いでしょ




 そう言われて、おそるおそる顔を上げた。



 目が合って、さっきよりも感じる圧力。



 でも、不思議と俺が恐れてた程の恐怖は感じない。
渡辺翔太
渡辺翔太
……少し、怖い
阿部亮平
阿部亮平
そっか。……あぁ、全部終わったよ
渡辺翔太
渡辺翔太
……佐久間、は…?
阿部亮平
阿部亮平
殺したよ。……佐久間も本望だろうね。最期は笑って逝ったよ





 表情を全く変えず、平然とそう言う阿部を見て、これが殺し屋なんだって悟った。




 これが、殺し屋としての阿部なんだ。





 初めて"殺し屋の阿部"と会って、どこか納得したような気分になった。

 
阿部亮平
阿部亮平
……妙に腑に落ちた顔をしてるね。何か感じた?
渡辺翔太
渡辺翔太
なんか、本当の阿部を知れた気がする
阿部亮平
阿部亮平
そっか。……まだ、俺が怖い?
渡辺翔太
渡辺翔太
……さっきよりは
阿部亮平
阿部亮平
なら良かった。翔太の怯えた顔は余り見たくないからさ




 そう言って笑った阿部は、さっきまでの重く冷たい空気が完全に消え、俺の知る"いつもの阿部"に戻っていた。
渡辺翔太
渡辺翔太
…………なぁ、もう、阿部に戻った?
阿部亮平
阿部亮平
えぇ?さっきからずっと俺だよ。どうしたの?



 もしかして二重人格なのか、そう思ってしまうほど空気が違う。いつもの温かい雰囲気を纏った阿部だった。

 スイッチか何かがあるのかもしれない。殺し屋のスイッチが切れたから、いつもの阿部に戻ったのかも。
渡辺翔太
渡辺翔太
そっ、か………
阿部亮平
阿部亮平
変なの。まあいいけど。俺さ、まだ翔太に話さなきゃいけないことが残ってるんだよね
渡辺翔太
渡辺翔太
え……?
阿部亮平
阿部亮平
ただ、その話をする前にある人を呼ば…



 
渡辺翔太
渡辺翔太
えっ………?




 目の前から突然阿部が消えた。


 いや、俺が反応できなかっただけで、阿部はその場に倒れたんだ。なんの前触れも無く、体が崩れ落ちる様に倒れた。
渡辺翔太
渡辺翔太
お、い、阿部っ!……っ、目黒!!




 阿部の体を揺すったりしてどうにか起こそうとするが、当然反応は無い。

 どうしていいか分かんなくなって、咄嗟に目黒の名を呼んだ。すぐそこまで来てくれてたのか、目黒はすぐ俺の隣に並んで阿部の様子を見てくれる。
目黒蓮
目黒蓮
……血を流しすぎたんだ…連れて行こう
渡辺翔太
渡辺翔太
…っ、どこに…?

















目黒蓮
目黒蓮
………………本部に

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