〜国見side〜
走った。通り過ぎる人がこちらをわざとらしく振り返る中、ただひたすら走った。
国見「くそ……っあなた、なんであいつ……!」
ジャケットを着てなくてよかった、とこんな時でも冷静にそんな事を考えてしまう自分が、正直腹立たしかった。
俺は首元のネクタイを緩め、第一ボタンを開けると、さっき見つけた手紙とスマホだけ持って、駅へと走っていった。
________国見くんへ________
この手紙を見つけた国見くんは、きっと凄く怒っていると思います。わかってる。…けど、許してほしいです。
私は2日前に脳震盪が回復して、絶対安静の一日中ベット生活をようやく終えました。何度もお見舞いに来てくれたのに、会えなくてごめんね。
私が怪我して心配かけたよね?私も自分の命が無くなるんじゃないかって、“死”への恐怖を1番感じたのが、この事件でした。
私は中学生の時に両親を亡くし、天涯孤独となりました。その出来事をきっかけにして、私は大切な人を失う恐怖を覚えました。
だからこそ、見知らぬ誰かにとっての“大切な人”も守れるのなら、私のような悲しい思いをする人を一人でも減らしたいという自己満から、呪術師を始めました。
そんな、人一倍大切な人を失う悲しみを知った私だから…国見くんもそんな思いにさせたくなかった。だから会えなかったし、何も言わずにサヨナラしようと思いました。
国見くんの方が私よりもずっと不安だって分かってる。…けど、私も怖くてたまらなくて。私の自分勝手で逃げてしまいました。ごめんなさい。
国見くんは『傷ついてもいい』って言ってくれた。その言葉で十分なくらい、私はすっごく嬉しかったんだよ。国見くんが想像してるよりも、ずっとずっと、嬉しかった。ありがとう。
私との何気ない時間を大切にしてくれてありがとう。
遠距離でも関係ないって言ってくれてありがとう。
何があっても、どんな時でもずっと、私のことを好きでいてくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
私に恋を教えてくれてありがとう。
バイバイ。
あなた
あの日、1度だけ家まで送った記憶を頼りに、俺はあなたのマンションまでたどり着く。
部屋は確か…、805号室のはず。
初めて及川さんの口の軽さに感謝しながら呼び出しボタンを押すも、反応はまるでなし。
焦って俺はポストの方に回り、順番に805のポストを探す。
順番に探す必要もないくらい、それは見つけやすかった。
国見「塞がれてる…。」
ポストの口がテープで塞がれたその光景は、既に去った後だったという事実を物語っていた。
あの手紙には、“サヨナラしようと思った”と書いてあった。…つまり、もうこの家には居ないんだ。
けど他に行くあてもなくて、それでもあなたと話しがしたくて、俺はあなたに電話をかける。
音声「ただいま電話に出る事ができません。_____」
苛立ちながら俺は、耳からスマホを離して再びポケットにしまった。
どうするべきだ…?闇雲に探したって、無駄足になる事ぐらい分かってる。駅に向かった方が確実なのかもしれない。
そうやってもんもんと考えながらマンションを出ると、マンションの前に立っている人影を見つけた。
瞬間、今まで頭の中でぐるぐると考えていた思考が、一気に全て吹き飛んで言って、
俺はその人物に一直線に近づいた。
国見「伏黒っ……!!」
俺がそう呼ぶと、伏黒は驚いたように目を見開く。
恵「国見……お前、サボりか。」
国見「なぁ、あなたの居場所知ってんだろ…!?」
恵「……知らない。」
俺から視線を逸らしてそう答える伏黒に、俺に隠し事をしていると感じた俺は、その両肩をグッと掴んだ。
国見「嘘つけ……!」
恵「落ち着けって、おい…国見!!」
伏黒の肩を揺らした俺を腕1本で制する伏黒との、力の歴然さを今更になって実感する。
恵「俺は最後にここ見ていきたくて残ってた。狗巻先輩は五条先生と一緒に駅に向かってて、あなたは……」
少し躊躇った後、伏黒はハッキリと俺の目を見て告げた。
恵「あなたは一人で何処か行った。“最後に見ていきたい所がある”って言って。俺にも場所を教えてくれなかった。」
“最後に見ていきたい所”…?
恵「…お前なら、察しがつくんじゃねぇか?」
ふっと口元にこぼした微笑は、やけに切なげだった。
国見「伏黒、お前……」
『あなたのこと、好きなのか?』
そう思ったけど、それは聞いていい事なのか俺には判断つかなくて、
恵「五条先生たちとの待ち合わせに遅れても困るし。…国見、あなたのこと探してくれないか。」
伏黒が、俺に言葉を続けさせまいと、その声を重ねたように思えた。
……お前はそうやって、ずっと自分の気持ちを押し殺してきたのかよ。
国見「………わかった。」
「ありがとな、」と初めて伏黒に言ったのが、最後になるとは思ってもみなかった。なんなら一生言うことなんてないと思っていた。
それは伏黒も同じようで、俺の言葉に面食らった顔をすると、直後に「おう。」と言って笑った。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。