第6話

5.光の少年
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2026/02/22 07:11 更新
織江 藍
織江 藍
……っ、ちょっと。……前、見えないんだけど
路地裏の薄暗い影の中、藍は視界を遮る帽子のひさしを、不器用そうに指先で押し上げた。
首元には愛用のヘッドホンがぶら下がり、使い込まれた赤と白の帽子が、彼女の小さな頭にぶかぶかと乗っている。
織江 藍
織江 藍
むぅ……
頬をわずかに膨らませ、不機嫌そうに上目遣いで少年を睨む。
液晶の光しか知らなかった透き通るような肌が、マサラタウンの柔らかな木漏れ日に照らされていた。
あ……
藍を引っ張ってきた少年の動きが、ぴたりと止まった。
彼は数多の冒険を切り抜け、伝説のポケモンと対峙しても物怖じしなかったはずだが、
至近距離で向けられた「世界1位」の意外すぎるほど年相応で、無垢な少女の表情に、一瞬だけ言葉を失う。
(……なんだ、あんな怖いデータを出してたから、
 もっとトゲトゲした奴かと思ってたけど。……意外と、普通に女の子なんだな)
少年は心の中でそう零した。
藍は無自覚だった。今までバトルと冒険に明け暮れ、人と深く関わることがなかった藍にとって、
その真っ直ぐで濁りのない視線が、どれほど「計算外」の破壊力を持っているかということに。
サトシ
サトシ
悪い悪い! でも、あそこにいたら捕まってただろ?
俺はサトシ。こっちは相棒のピカチュウだ!
織江 藍
織江 藍
……サトシ
藍はその名を聞いた瞬間、脳内のデータベースが高速で火花を散らした。
彼女の視界には、少年の頭上に浮かぶ【サトシ:Lv. ???】という、
読み取り不能なバグのようなテキストが表示されている。
織江 藍
織江 藍
(……サトシ。ピカチュウ。……マサラタウン。間違いない。
 ここは『ゲーム』のシステムと、『アニメ』の物語が物理的に混同してる世界だ)
現実のプレイヤーたちが「効率」を求めて闊歩する一方で、
その中心には物語の主人公が実在している。
藍にとってこれ以上の「異常事態」はなかった。
織江 藍
織江 藍
……藍。織江 藍。……今は『匿名N』って呼ばれてるみたいだけど
サトシ
サトシ
藍か! いい名前だな! なぁ藍、さっきの数値……
お前、めちゃくちゃ強いんだろ⁉ 落ち着いたら俺とバトルしてくれよ!
織江 藍
織江 藍
……あー、やっぱり面倒。……私、熱血なのは苦手なんだけど
藍は帽子の庇をさらに深く下げ、赤くなった耳を隠すようにヘッドホンを耳に戻した。
計算で導き出せない「主人公」という不確定要素を前に、
世界1位の心拍数は、ほんの少しだけ予定外の数値を叩き出していた。

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