誰もいない夜の社長室。
外の景色は、まるでこの世のものではないような暗闇に包まれていた。
フョードルは遮光布を閉め、鍵をかける。
「さあ、他の世界とお別れをしましょう」
ゆっくりと、彼女に手を差し伸べた。
まるで聖母像に跪くような仕草で、彼女の手を取る。
「これは君が望んだ牢獄です。
誰も入って来られず、誰も君を救えない。
けれど、僕はここにいます。ずっと、君のそばに」
手を握る指先が、ほんのわずかに力を帯びる。
「その痛みさえ、愛しいです」
彼女は、ゆっくりと目を閉じた。
そして、頷く。
『社長……どうか、私を壊さないでください』
その言葉に、フョードルは目を細めた。
「いいえ――壊しますとも。
ですが、君が本当に壊れるとき、それは“幸福”のかたちでしょう」
彼は微笑む。
「君を再構築するのです。僕の理想の秘書として。僕だけの所有物として」
部屋に、静かな旋律が満ちた。
それは、愛と狂気が重なり合った、終焉の前奏曲。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。