前の話
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仕事ばかりで、恋愛はかなりご無沙汰状態。
今年はとうとう、アラサーの仲間入りだ。
と言いつつ、実は最近、よく遊びに誘ってくれる男の子がいる。
彼はまだなんと18歳!あの早稲田大学に通う、現役大学生だ。
ひょんなことがきっかけで知り合い、ダンスが好きと言う共通点から意気投合した。そこから私たちが仲良くなるまでに時間はかからなかった。
会うたびに着ている服、メイク、髪型をストレートな言葉ととびきりの笑顔で褒めてくれる。若さゆえの危なっかしさはあるとは言え、私は彼の素直なところに、一人の人間として惹かれるようになって行った。
ある日の夜遅く、もう寝ようとベッドに入った時だった。LINEの通知音が鳴る。
いつもの絵文字で賑やかな文面とは違った。
心配になった私は、すぐに電話をかけた。
明日も仕事があるから、30分だけと伝えて、近くの公園で会うことになった。
彼はラフなスウェットのセットアップに、キャップを深く被り現れた。
スタイルがいい彼は、そんな格好もサマになってしまう。純粋に羨ましくて、見惚れてしまう。
いつもと同じ、無邪気な笑顔で私に話しかける。
彼の顔つきが変わる。
2人の心臓の音と、風になびく木々の音だけが聞こえる。
震えた声で、彼は言った。
いつもの彼の表情が、そこにはなかった。
まさか、歳の離れた男の子が、私をーーー
嬉しさと驚きで、私はなかなか答えられない。
震えながら、一生懸命に伝えてくれたことが愛おしくてたまらなくて、大きく頷いた。
涙目になりながら、大きな声で、やったあー!!と喜ぶ彼。
近所迷惑だからやめて、とたしなめると、
ごめん、ベネズエラはまだ昼だから。と冗談を言ってくる。
可笑しくて、時間を忘れて、ただ幸せな時間を過ごした。
その日から私は、ラウールの彼女になった。
あの日から約1年が経った。
ラウちゃんは変わらず、毎日チューをしたがるし、家にいるときもくっついて離れない。
私にとっても彼がかけがえのない存在であることは確かだった。
次第に、ラウちゃんの親友の康二くんを交えて遊ぶことが増えた。
康二くんはラウちゃんの先輩でもあり、親友でもある。
同じ関西人でノリが合うし、同年代ということもあり、すぐに打ち解けた。
初めはラウちゃんの先輩で自分よりも年上だったから、敬語で話していたけど、
と言ってくれた。
康二くんを交えて遊んでいるうちに、優しさの塊のような人であることは、痛いほど理解していった。
ラウちゃんといるときは、元気な大型犬を連れているような感覚で、若さからくるエネルギーが眩しすぎる時があった。
康二くんといるときは、落ち着いていられる。
康二くんの彼女になる人は、幸せだろうな。と考えてしまうことも少なくなかった。
と康二くんから連絡がきた。
内緒で男性と2人で出かけることはやはり負い目を感じたが、〝ラウちゃんの誕生日〟を理由に、行くことを決めた。
ただ、この日で何かが変わってしまうかもしれないという不安もあったのも確かだった。
待ち合わせ場所につくと、康二くんが先に待っていた。
私の好きなテイストのファッションを着こなす康二くんは、声をかけづらいくらいかっこよかった。
私たちはショッピングに夢中になり、ラウールがもらって喜ぶものは何か を必死で考え、探した。
結局、ちいさな雑貨屋で見つけた香水を、康二くんは選んだ。
会計の間店の外で待っていると、
お待たせ、と康二くんが出てきた。
平気でそんなことを言える康二くんには驚かされる。
ラウちゃんに買ったものとは違う匂いのものだ。
康二くんとお揃いの香水、、、
申し訳ないと思いつつも、今日のお礼だと言い、断りきれず受け取ってしまった。
時計を見ることも忘れていた私たちは、外が暗くなっていることに気がつき、急いで帰ることにした。
別れ際、突然康二くんが真面目な顔つきになった。
と、聞こえないくらいの声量で言った。
私は冗談として聞き入れることができなくて、返す言葉が見つからなくて、聞こえていないふりをして、急いで帰った。
これ以上聞いてしまったらどうなるかは、もう分かっていた。
電車を降りると、雨が降っていた。
傘を買うのも面倒だから、走って帰ろう。
羽織りを頭の上にかぶせて、急いで家を目指していると、
と後ろから呼ばれた。
振り返ると、びしょ濡れになったラウちゃんがいた。
激しく彼は私を叱責する。
そうだ、買い物に夢中で連絡することを忘れていたんだった。
康二くんがラウちゃんにあげるプレゼントを一緒に選んでいたとはとても言えず、
『ラウちゃんに今年は何あげようか、下見しに行ってた』
と、嘘ではない、と思いながら答えた。
彼は泣きながら私を抱きしめた。
手には傘を持っていたけど、濡れていて体がとても冷たくて、なんでだろうと考えたけど、
ああ、傘をさして走り回るのが邪魔くさかったんだなあ。純粋にそれだけだなと思うと、彼らしくて笑ってしまった。
私は今日1日、なんて馬鹿なことを考えていたんだろう。
こんな少女漫画のようなことを本気で言ってくるような人は、この人しかいない。
そんな素直なところが大好きで、この人を好きになったんだ。
罪悪感で涙が溢れて、私も強く彼を抱きしめた。
その時、香水を入れた袋が手から離れた。
そして、瓶が割れた。
ラウちゃんは、良かった、無事で良かった、と泣きじゃくり、香水のことには気づいていない。
彼をなだめて、仲直りをして、相合傘をして家に帰った。
シャワーを浴びて、2人でベッドに入った。
必死で探してくれていたんだろう、電気を消す前にラウちゃんはすぐに寝てしまった。
まだまだ子どもな彼の寝顔を見て、改めて彼の大切さを実感した。
私の気の迷いで、彼を傷つけることは絶対にしない。
そう誓って、電気を消した。
私があの香水の匂いを嗅ぐ事は、二度とないーーー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。