里の人達に聞き回ってみたりしても、新鉄さんの事はあまり分からなかった。ただ、聞いていて分かったことがある。鋼鉄さんは新鉄さんの弟であり、兄が死んで以降、あまり姿を現さない…いや、家に帰っていないのだという。
…新鉄さんからも聞いたことがある。鉄井戸さんから霞柱様の鍔と似たようなものをつけてやってくれ って言われて付けたのだ。という会話が思い出される…。そうか…。
だから時透様もここに来たんだな。
だがいくら新鉄さんや鋼鉄さんの話を聞いても、死因のことについては多くは語られなかった。やはり鋼鉄さんに直接聞いた方が早いかもしれない…気を病んでいて、あまり相手にはして貰えないだろうが…
ならば、鋼鉄さんは森や山の方へ彷徨っているのかもしれない。
森の中、緑を掻き分け、探し回る。こういったことは別に慣れていたから感覚を研ぎ澄まして、鋼鉄さんを探そうと意識する…。
すると…前方から人影が見える。あれは…。
そうやって目を凝らすと…刀を持った人形の腕を持っているのが分かる。そういえば、昨晩くらいに絡繰人形がどうとか言っていた気がする…まぁ持っているということは壊して強奪したんだろう。
とりあえず話を繋げる為に話しかけてみる。
そうやって話題を変えようとする。
そうやって名を名乗る玄弥。けれども時透様はどうでもいいようにあしらった。
やはり時透様はいつもあぁだ。とりあえず望み薄ではあるが、時透様に聞いてみる。
時透様の足は止まらずに、俺たちのすぐ横を通って行ってしまった。
五感に集中させて、森の中を散策しても誰とも会わない…。山奥にいるのだろうか。でも山奥に立ち寄るのは禁止されているからそんな所までは行けない…もしそこに鋼鉄さんがいるなら俺は行けない…
そう脳内で考え、うんうんと唸る。
そう言うと猟無一は空の方に視線を向ける。時はいつの間にか日が沈みかける夕方だったのだ。
時間帯は夜、蛍が煌々と草むらを照らして飛ぶ時間帯
中庭を歩いていると、見慣れたシルエットが何かを飛ばしている。
時透様。俺の師範だ。
「そうですか…」と吐息混じりの声を出したあとに沈黙する。時透様がやっているのは…あれは、紙飛行機…飛ばしているのか。
でも夜中に紙飛行機を飛ばすなんて…俺たちは夜に活動しているから何とか夜目は利くが、夜中に、それも一人で紙飛行機で遊ぶなんて、つまらないだろう。
「ふうん。」と言った声を最後に何も喋らなくなってしまった。多分…まぁ…「するなら勝手にしてよ」という言葉の意味だろう。別にその先の言葉を紡がないのなら黙って紙飛行機を作るだけだ。縁側に置かれている紙の束を1つ手に取り、慎重に、暗い中、折り方を折っていく。
………
…
不格好ながら紙飛行機を作り、飛ばしてみる。時透様に紙飛行機を見せたら「下手くそ」って言われてしまったが、別に自分の手が不器用ということでは無い…ただ夜だから手元が狂いまくったからだ…多分…。
とはいえ、自分の歪で、不格好に折り跡が沢山着いた紙飛行機は中々空を飛ばず、飛んでも1、2秒程しか飛ばせられなかった。
時透様の趣味は予め把握していた。部屋の中を掃除すると箪笥の中から沢山の色がある折り紙と、その中に仕舞われた切り紙、紙飛行機が仕舞われていたからだ。
…けれども、一度も紙飛行機や折り紙で遊んでいる所など見かけなかったから、今のその姿が新鮮に見える。
そして時透様の紙飛行機は本当に軌道がブレずに空高くまで飛んでいく。
そう言っても返事は帰ってくることはなかった。ただ飛ばした紙飛行機を見て、ぼーっとそれを見ているだけの時透様が見える。
そう言うと、時透様は次の紙飛行機を飛ばそうする手が既のところで止まる。
紙飛行機を飛ばそうとした腕はゆっくりと下に下がり、振り返らずにただポツリと呟く。
そう腑抜けた声を出してしまった。覚えていない…どういうことだろうか。
久々にこんな長いこと喋っているのを見たような気がする。いや、やはり初めてかもしれない。でも口から出た言葉は本人が無意識に感じている劣等感…そして罪悪感なのではないかと頭が言っている。こういう時に限って頭が謎に働くんだ。
そうやって横を通り過ぎようとする時透様の肩をガシッと掴む。
なんだか、放っておいては行けないような気がしたから。
真っ直ぐな瞳で、時透様を見つめる。時透様は何も言わずにこちらにゆっくりと振り返る。
そうやってさっきまで時透様が手に持っていた紙飛行機を手に持ち、空に向かって飛ばす。けれども時透様なりのコツがあるのだろうか、4〜5秒間だけ飛んでそのまま地面にぽとりと落ちてしまった。
時透はいつもならただ黙って部屋に戻っているだろうに、その時だけは大人しくその場にとどまっていた。
何か、彼に期待でもしているのだろうか。
「俺の父さんも、俺には「猟人としての無限の可能性」という意味を込められて名付けたと教えられましたから…」と言って色々ワタワタと話そうとしていたが、それ全ては時透の耳には入っていなかった。「無限の可能性」……誰かに言われたような気がする。
耳の奥からキーーンと耳鳴りがする。思い出そうとする度、脳が思い出すのを拒む。だが、その瞳には一瞬だけ彼に宿していたであろう光が見えたような気がした。
…自分と…似た…背格好の…人。
一瞬だけ、木々の葉が赤色や黄色に染まった森林が脳内にて映像として映る。だが、それは脳の霞によって薄れ、消え去っていく。
心配そうに顔を覗き込む継子の姿。そうやって覗き込まれると理性が復活し、普段通りの時透に戻る。
そうやって顔を覗き込む猟無一の体を手で押し、そのまま通路の先へと消えていく。
と、心配する猟無一を他所に、あの脳内の光景はなんだったのか、そして、誰に言われたのかを、考える時透だった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!