僕は父様が大好きだ。
国民のために、より良い王国を作るために政治を行う、為政者としての父様の姿。
休憩を挟んだ時に飼い犬であるコーギーのジョセフィーヌと戯れている、動物好きとしての父様の姿。
休日に母様と優雅にアフタヌーンティータイムを過ごす、母様の夫としての父様の姿。
そして何より…まだまだ未熟な僕にたくさんの面白いことを教えてくれる、"僕の父親"としての父様の姿。
そのどれもが例外なく美しく格好良い。
僕は父様の全てを敬愛している。
__今日は朝早く起きて父様に小鳥のことについて教えてもらうのだ。勿論使用人にはヒミツ、でね。
僕はこの時間も大好きだ。だって、僕と父様以外このことは誰も知らないのだ。僕と父様だけの関係、それだけで幸せだ。
朝6時、父様が眠っている部屋を3回ノックする。
普段なら直ぐに返事をしてくれるはずなのに、今日は何故だか返事がない。父様はまだ眠っているのだろうか。確かに昨日はいつもより忙しそうに動いていたし……きっと僕が理解するには早すぎるような事情があったのだろう。
そう言って、父様の居る部屋の扉をそっと開く。
そのとき、真っ先に視界に飛び込んできたのは床のカーペットにべっとりと付いた紅い血の跡だった。その血の跡はまるで何かを引きずったように父様のベッドの方向へと続いていた。
あまりに恐ろしくなって父様のベッドの方を見ることが出来ない。でもそれじゃあ宜しくない、もしも万が一のことがあったら使用人に…つ、伝えないと……
しばらく経って、決心した僕は全身を震わせながら血の跡を辿って父様のベッドに少しずつ近づいていく。まだベッドの上は見えない、見られない。
いざ、父様のベッドの隣に来た時にその光景は僕の目にはっきりと映し出された。布団には誰かの血が滲んでいた。この血が父様の体内にあったモノであるわけがない…そうであってくれ。
鮮血に染まった父様の服
青白くなった父様の顔色
思わず父様の身体に触れた時の体温の冷たさ
小鳥のさえずりが聞こえるような優雅な早朝に1人の少年の叫び声が城中に響いていた。
父様の身体に触れたとき、僕の手は生暖かいべちゃべちゃとした鮮やかな赤色の液体に包まれた。
なんで……どうして?分からない。なにも理解できない。
なんで父様は冷たいのにこの血液は生暖かいんだ?
なんで僕の手は"父様の血液"に包まれているんだ?
僕には本当に何がどうなっているか、何もかも分からなかった。しばらくしたら城の使用人が来たことだけはかろうじて覚えている。その後は何も覚えていない。風呂場に連れていかれた気もするし医務室に連れていかれた気もする。
ただひとつ、確かに分かることは
"僕の父様は全部…何もかも失われてしまった。"
それだけだ。
国王が亡くなった。魔王軍の何者かによって暗殺されたのだ。そしてこの国王暗殺事件を発端とし、王国の重要人物も次々に襲われ命を落とす事態となった。僅か二週間で王国は国としての機能を続けることが困難になり、一連の出来事は王国中の国民を混乱に陥れた。
父様が本来座っているはずだった玉座に僕は今座っている。
ここは今でも父様の席だ。ここは父様が座るべき場所であって僕が座っていい場所ではない。
そうだ、父様はいちばん死んじゃだめな人だったんだ。
だから父様を殺したやつも死ななきゃだめなんだ。いや、死ぬ程度じゃこんなの許されない。永遠に苦しむべきだ。そして一生後悔すればいい、僕の父様を殺したことを。
本当は僕が犯人を懲らしめないといけない。父様以上に苦しい思いをさせなければならないんだ。でも、城の者たちはそれを許してくれない。僕は"父様の玉座"に座っている義務があるらしい。……悔しい、死ぬほど悔しく思う。出来ることならそんな義務なんてほっぽって、僕が…僕が父様殺しの犯人を!!!!
でもそれが出来ない。
だから僕は命じたんだ。
とある勇者は、現在の王国のありさまを聞きつけてひとつの決断をしたらしい。
……
そうして勇者は仲間達の居る冒険者ギルドへと向かいはじめた。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。