サムライ翔side
ここ最近咳で目が覚めることが増えた。今日も小さな咳と共に起床する。喉の調子が悪いのかもしれんし、今度病院にいこうと考えて体を起こして驚く。
布団にいくつかの花が散らばっていた。動揺しているとまた咳が出た。
すると口から布団に元々散らばっていたのと同じ種類の花が出てきた。もしかして俺は花吐き病とやらになってしまったんじゃないか。だとしたら説明がつく。
最近よく出ていた咳は花吐き病の前症状のようなものだったのだろう。そして俺が片思いを拗らせている相手。それは間違いなくなろっちだ。
なろっちとは趣味があってすぐに仲良くなった。心友のはずやった。だけど、きちんとしてるのにふざけるのが好きなそのギャップ。大好きな音楽を語る時に見せる笑顔。雨の日の子供みたいなところ。色んな1面を知って惹かれていって気がつけば恋愛的に好きになっていた。
そしてそんななろっちには好きな人がいる。かなり前から薄々そうなんじゃないかとは思ってたんやけど、ちょっと前に一緒に出かけた時になろっちの口から直接聞いた。好きな人がいるんだと恥ずかしそうに笑ったなろっちの顔を鮮明に覚えている。
長年拗らせていた片思いはそれによってさらに拗れた。だから花吐き病になってしまったんやろう。
花吐き病を完治させるには片思いの相手と両思いになるしかない。でもそんなの無理や。思いを伝える勇気なんてないし、仮に伝えたとして両思いになれるわけない。だけどなろっちにだけは絶対花吐き病になったとバレたくない。制吐剤とかあるんやろか。
とりあえず近くの薬局にきてみた。いつまた花を吐くかわからないからマスクを付けてきた。知り合いに合わんうちにはやく制吐剤を見つけてしまおうと足早に店内を歩く。
顔を上げなくても声だけでわかる。今1番会いたくない相手にあってしまった。
咳が出る前に立ち去ろうと会話を終わらせる。が間に合わなかった。なろっちに背を向けたところで咳が出た。
駆け寄ってきたなろっちの瞳が見開かれた。さっきより多く吐き出された花がマスクからはみ出ていた。
バレてしまった。花吐き病でないと誤魔化すのは無理があるだろう。でもせめて好きという気持ちだけは隠し通したい。誰への恋心を拗らせたってことにしたらええんやろ。なろっち以外の人を好きになったことなんてないのにな。
なら付き合って、だなんて言えるはずない。そもそもそれで付き合っても嬉しくない。
なろっちが送ってくれて帰宅した。気を使ってくれたのか聞いてこやんかったけど、俺に好きな人がいるって確実にバレたはずだ。どうすべきか決めきることができないまま1日が終わってしまった。
ずっと決断できないできるうちに症状がひどくなってきている。吐き出される花の量が増えてきた。外に出るのもしんどくなって引きこもる日々が続いた。グループの撮影にもしばらく参加できていない。
思いため息を零しているとそれに不似合いな明るいチャイムの音が響いた。
ピンポーン
重い体を引きずって玄関に向かう。訪ねてきたのはなろっちだった。
ほんまは咳が出るだけじゃなくって、体もだるいし重い。体力も減っている気がする。でもそれはなろっちには内緒。
自嘲混じりの声がこぼれる。
なろっちはほんとによく気がつく。でも俺がなろっちに向けとる1番おっきな感情には気づいてくれへん。いっそ…気ぃついてくれたら楽なのにな。
伝えたり気が付かれたりしたら困らせるから、バレないようにしようってずっとずっとそう思ってた。そうやって押さえ込んどった。でもやっぱり知って欲しいと思ってしまう。伝えたいと思ってしまう。だけど、キッチンで料理をしてくれているなろっちは俺に思いを寄せられているとは夢にも思っていないんやろうな。気がつくと俺はなろっちを抱きしめていた。
可愛すぎるなろっちを抱きしめる腕の力が強くなる。
照れて否定してくる姿がまた可愛くて、もっと照れさせてやろうと口を開いたところで咳が出た。
力が緩んだ俺の腕の拘束から抜け出したなろっちが心配そうにこちらを見つめている。
ついさっき咳と共に出てきた白銀の百合を手のひらに乗せてなろっちに見せる。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!