第19話

告白
3
2025/03/20 09:05 更新
「すみませーん、パスタ一人前追加で!」

「あー!うちも、うちも!しらべちゃんと同じやつー!」

かしこまりました、そう言って店員が厨房の方へ消えてゆく。
俺は財布の中身をもう一度確認し、最悪皿洗いも覚悟しないといけないな、と自分に言い聞かせた。

ストリートライブの後、あおいの強引な誘いに折れたしらべは、一緒に行くことを渋々承諾。
俺たち三人は駅前のファミリーレストランに入った。

一人増えたとはいえ、ファミレスならそこまで金額もいかないだろう。
そんな俺の甘い考えなど一瞬で吹き飛ばすかのように、しらべはどんどんと注文を重ね、そして何故かあおいも負けじとそれに続く。

俺はそんな二人を対面に見ながら、ドリンクバーの野菜生活をすすっていたのである。

「アンタ食べないの?体に悪いわよ」

「てつや食べへんの?うちのんあげよっか?」

誰かの優しさがこんなにも苦痛だった事があるだろうか。俺は引きつった笑顔で答えた。

「あ、ああ。あまり腹が減ってないんだ。俺の事は気にせず、遠慮なく食べてくれ」

「そう。ま、アンタに遠慮なんてするはずないけど」

しらべはそう言いながら、運ばれて来た三杯目のパスタを口に入れた。

俺は一瞬沸いた怒りをぐっと堪え、ずっと気になっていた事を彼女に聞くことにした。

「なぁ、お前……
日比谷おとねと知り合いなのか?」

そう言った途端、さっきまで目の前で勢いよく動いていたフォークがピタリと止まる。

「……なにが言いたいの?」

彼女は、今までで一番鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
だが、俺も引く訳にはいかない。そう覚悟を決め、冷静に会話を続ける。

「昨日、楽屋であの人がお前に話しかけた時、少し引っかかったんだ。なんていうか……呼び方、とかさ。それに今日、日比谷おとねの同期の人と話しをする機会があってな、あの人の昔の話しを聞いたんだ。それを聞いて、なんだかお前と重なってーー

「やめて!!」

そこまで言った時だった。
しらべが大声で強く拒絶し、テーブルを叩いた。
店内の空気は一瞬で張り詰め、静まり返る。
その様子を見て慌ててやって来た店員さんに、俺は何度も頭を下げ、もう大丈夫ですからと言った。

あおいが心配そうにしらべを見つめていると、しばらくして、彼女はうつむいたまま小さな声でポツリと呟いた。

「……悪かったわね、大声出したりして」

俺はすぐに質問した事を後悔し、謝ろうとした。
誰にだって触れられたくない事はある。
俺は彼女のそんな部分に、土足で踏み込んでしまったんだ。
すまない。そう言う俺に、しらべはすぐにこう答えた。

「別にアンタが謝る事じゃないわ。
あの人は……日比谷おとねは、わたしの実の母親よ」

俺はそう話すしらべを黙って見つめていた。
全く驚かなかったのかと言われればそうじゃない。だが、心のどこかでそんな気はしていた。ただそれだけの事だった。
しばらくの沈黙の後、彼女が口を開いた。

「あまり驚かないのね。なんだか拍子抜けだわ」

あっけらかんとした様子でそう言って、再びフォークを動かし始めた。

「いや、驚かなかった訳じゃないよ。知らなかったしさ。ただ、何となくそんな気がしていただけだ」

「アンタに気づかれるなんて、あたしもまだまだね」

それよりーー
そう言って、目線をパスタから俺に向ける。

「アンタは大丈夫なの?プロデュースするなんてデカい口叩いてたけど、あてはあるの?」

うっ、痛いところを突いてくる。
そういう所が母親にそっくりなんだよ、と思いながらも、俺はあおいの方を見てこう答えた。

「まぁ、とりあえずはな」

「とりあえずってなに?なにがとりあえずなの?なら言ってみなさいよ。この先どうするか」

しらべが、ここぞとばかりに怒涛の攻撃をけしかける。
俺は口を開こうとするが、自分の頭の中でも纏まっていない事を言葉にできるはずもなく、ごにょごにょと口籠っていると

「ほらみなさい!アンタなんかにこの子を任せていられないわ。明日の夕方、もう一度ここに来なさい。あおいと二人でストリートライブをするから。わかった?」

俺は母親の事を聞いた時の数倍、驚いた顔をした。

プリ小説オーディオドラマ