雨の音だけが響くセカイだった。
青く薄暗い教室の中央で、KAITOは机に突っ伏していた。
「……もう無理」
ぼそり、と呟く。
だが返事はない。
誰もいないからだ。
「ミクー……」
「司くーん……」
「彰人ぉ……」
呼んでも誰も来ない。
なぜなら今日は“誰にも構ってもらえない日”だった。
原因は単純。
昨日、KAITOがノリで全員のスマホの通知音を「ハァイ☆」という自分のボイスに変えたからである。
朝。
学校。
ライブハウス。
ワンダーステージ。
どこでも突然、
『ハァイ☆』
『ハァイ☆』
『ハァイ☆』
と鳴り響いた。
当然、全員ブチギレた。
「いやぁ、あれは流石に怒られるって……」
初音ミクが苦笑する。
「でも面白かったよ?」
天馬司は腹を抱えて笑っていた。
「オレの授業中に鳴った時は死ぬかと思ったけどな!!」
一方、東雲彰人は真顔だった。
「俺、バイト先で鳴った」
「……ご愁傷様」
その頃KAITOは。
教室の隅で体育座りしていた。
「みんな冷たい……」
すると突然、扉が開く。
ガラッ。
「……何してんの?」
現れたのは宵崎奏だった。
KAITOは勢いよく顔を上げる。
「かなでぇぇぇぇぇ!!!」
「うわっ」
「会いに来てくれたの!?」
「許してくれるの!?」
「愛してる!!」
「いや怖い怖い怖い」
奏は少し引いた。
だが次の瞬間。
『ハァイ☆』
奏のスマホが鳴った。
空気が止まる。
KAITOも止まる。
奏、無言。
KAITO、冷や汗。
「……まだ解除してなかったんだ」
「ごめんなさい」
即土下座だった。
数分後。
KAITOは廊下を雑巾掛けさせられていた。
「うぅ……」
その横を通った暁山瑞希が吹き出す。
「ほんっと面白いねKAITOって」
「笑わないでぇ……」
「でもさ」
瑞希はしゃがみ込み、ニヤッと笑った。
「次やる時はボクのも混ぜてよ」
KAITOの目が輝く。
「共犯!?!?」
「共犯♪」
遠くから彰人の声。
「おい瑞希ぃぃぃ!!変なこと教えるな!!」
セカイには今日も平和な騒音が響いていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。