俺の目の前に現れたのは、
唾を大量に垂らし白目を向いている
俺より遥かに大きな図体をもつ鬼の男性だった。
明らかに俺を目がけて襲ってくる鬼を見て、
怯えて後ろに倒れ込んでしまう。
やられる!と思ったその瞬間、
その男性鬼が俺の視界の外に吹き飛んだ。
呆然と固まっていると、
男性が吹き飛んだ方とは逆の方向から
綺麗なバリトンボイスが響いた。
その声の主はグルさんだった。
グルさんは、何かを殴った後かのように
手をブラブラと振っている。
今度は鬼が吹き飛んだ方向から声が響く。
思わずそちらを向くと、
そこには、さっきの男性鬼を
地面に押さえつけている兄さんの姿があった。
突然の出来事に放心状態になっている
俺をよそ目に、グルさん達はせかせかと
事を進めていく。
何が何だか分からない俺は、
ただ呆然と返事をすることしかできない。
その時、どこからか幼げな声が聞こえた。
その声の方へ振り返ると、
そこには大粒の涙を流しながら
暴れている鬼の男性に走り寄っていく
幼い子供の鬼の姿があった。
兄さんが叫ぶが、子供は足を止めず
男性鬼に近づいていく。
男性鬼はその子供の姿を見て襲いかかろうとするが、
兄さんのあの馬鹿力により押さえつけられる。
グルさんがその子を持ち上げ遠ざける。
が、子供はずっとグルさんの腕の中で暴れている。
兄さんが暴れている一般鬼を押さえつけ、
グルさんが暴れている子供をあやす。
正にカオスな状況に唖然としていると、
大先生とエミさんが話しかけてきた。
俺は大先生の手を借りながら立ち上がる。
ふぅ、と一息ついていると、
大先生はぽつりと呟いた。
俺はふと、グルさんと子供の方に目を向ける。
さっきの子供は少し落ち着いたようで、
グルさんと向かい合い地面に正座をしながら
事の経緯を話している。
グルさんと子供がギョッとして目を見開く。
兄さんは、さっきまで暴れていたとは思えないほど
ぐったりとしている男性を肩に担いでいた。
子供は立ち上がり、よろよろと
気絶している男性鬼に近寄っていく。
兄さんは無言で子供の身長に合わせてしゃがみ、
その子供と気絶している鬼とを近づけた。
兄さんは、子供の頭をポンポンと叩く。
その光景を見て、俺と大先生はあんぐりと
口を開けて固まった。
俺らが呆然としていると、
急に後ろからよく通る女性の声が響いた。
兄さんが顔を赤くしながら
その女性に文句をいい続ける。
エミさんが、肩をフルフルと震わせながら
笑いを堪えている。
俺らは3人で笑いを堪える。
一通り事が済んだ後、
俺らはグルさんの家へと招待された。
グルさんのお母さんが、
5mほどの高さがある重そうな鉄の門を
軽々とひっぱりガラガラと開ける。
グルさんの家は、御屋敷だった。
そして、デカい。とにかくデカい。
14人も入って大丈夫なのかと不安になっていたが、
こんなにもデカいとそんな心配もすぐ無くなる。
人間組は、その家の大きさに
まるで宝物を見つけた子供かのように食いつく。
じっくり外見を見物する者もいれば、
颯爽と中に入り暴れ回っている輩もいる。
そう言って、兄さんは服の裾を捲って
血だらけの腕をあらわにした。
その腕は結構悲惨に傷ついていて、
正直、病院に行っても大袈裟では無いレベルだ。
俺らがタフについて語っていると、
門の方から声が響く。
俺はそう言ってグルさん達を急かす。
そして俺らは、ようやくグルさんの家へと入った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。