第11話

#11 暴走
582
2023/09/14 06:31
一般鬼
グルゥァァァア!!
tn
うおぁぁぁぁぁぁぁあ!
俺の目の前に現れたのは、
唾を大量に垂らし白目を向いている
俺より遥かに大きな図体をもつ鬼の男性だった。
明らかに俺を目がけて襲ってくる鬼を見て、
怯えて後ろに倒れ込んでしまう。

やられる!と思ったその瞬間、
その男性鬼が俺の視界の外に吹き飛んだ。
tn
……………は……?
呆然と固まっていると、
男性が吹き飛んだ方とは逆の方向から
綺麗なバリトンボイスが響いた。
gr
私の仲間に手を出そうとは…
いい度胸をしているな。
その声の主はグルさんだった。
グルさんは、何かを殴った後かのように
手をブラブラと振っている。
ni
おいグルッペン。
こいつ、血飲んでる。
今度は鬼が吹き飛んだ方向から声が響く。
思わずそちらを向くと、
そこには、さっきの男性鬼を
地面に押さえつけている兄さんの姿があった。
gr
なっ……そうか、
血を飲んでいたのか…
ni
とりあえず、
こいつの親族を探そう。
gr
…あぁ、そうだな。
突然の出来事に放心状態になっている
俺をよそ目に、グルさん達はせかせかと
事を進めていく。
gr
大丈夫か?トン氏。
怪我はないか?
tn
え…あ、お、おう…
何が何だか分からない俺は、
ただ呆然と返事をすることしかできない。
その時、どこからか幼げな声が聞こえた。
子供鬼
お兄ちゃんっ!!
その声の方へ振り返ると、
そこには大粒の涙を流しながら
暴れている鬼の男性に走り寄っていく
幼い子供の鬼の姿があった。
ni
…っ、近づくんじゃねぇ!
兄さんが叫ぶが、子供は足を止めず
男性鬼に近づいていく。
男性鬼はその子供の姿を見て襲いかかろうとするが、
兄さんのあの馬鹿力により押さえつけられる。
gr
君、それ以上は
あいつに近づかない方がいい。
グルさんがその子を持ち上げ遠ざける。
が、子供はずっとグルさんの腕の中で暴れている。
子供鬼
やだっ…やだ、いやだぁ!
お兄ちゃん………っ!
ni
…お前、こいつの弟か?
子供鬼
そうだ!僕はお兄ちゃんの弟だ!
だから…だから、離して…っ!お願い…!
gr
い、一旦落ち着け!
落ち着け、落ち着くんだ…!
兄さんが暴れている一般鬼を押さえつけ、
グルさんが暴れている子供をあやす。
正にカオスな状況に唖然としていると、
大先生とエミさんが話しかけてきた。
ut
大丈夫そ?トントン。
tn
あ、大先生……
エミさんも……
em
とりあえず、あっちは
あの2人に任せて私たちは
離れましょう。
tn
お、おう………
俺は大先生の手を借りながら立ち上がる。
ふぅ、と一息ついていると、
大先生はぽつりと呟いた。
ut
…あの男性さ、鬼の血
飲んじゃったらしい。
tn
鬼の血?
ut
そう。さっきエミさんから
聞いたんやけどさ。
ut
鬼って、鬼の血を
少しでも…一滴でも飲んだら、
自我なくして暴走するらしい。
ut
鬼の血飲んで暴走した鬼は、
一生自我戻らんのやと。
ut
やから、暴走した鬼用の
牢獄ってのもあるらしいよ。
tn
はぇ〜………
…なんか、可哀想やな。
ut
それなぁ………
俺はふと、グルさんと子供の方に目を向ける。
子供鬼
…お兄ちゃんのコップに、
ドッキリのつもりで
僕の血を一滴入れたんだ。
子供鬼
そしたらお兄ちゃん、気づかずに
そのコップにお茶入れて、
そのまま飲んじゃって、それで…
さっきの子供は少し落ち着いたようで、
グルさんと向かい合い地面に正座をしながら
事の経緯を話している。
gr
…そうか、それは災難だったな…
ni
なんだ、原因はお前かよ。
gr
おぉ、兄さん…
…って、なにしてるんだ!
グルさんと子供がギョッとして目を見開く。
兄さんは、さっきまで暴れていたとは思えないほど
ぐったりとしている男性を肩に担いでいた。
ni
ん?…なにって、
気絶させただけだが……
gr
あぁ…びっくりした。
まさかそいつを殺ったのかと思ったぞ…
ni
殺ってたまるか。
安心しろ、生きてる。
子供鬼
お兄ちゃん……!
子供は立ち上がり、よろよろと
気絶している男性鬼に近寄っていく。
兄さんは無言で子供の身長に合わせてしゃがみ、
その子供と気絶している鬼とを近づけた。
子供鬼
…お兄、ちゃん………
一般鬼
……………………
ni
………はぁ…おい、小僧。
子供鬼
ひっ……な、何…?
ni
こいつはもう元には戻らない。
…次からは、そう簡単に
血を出さないようにするんだな。
子供鬼
っ……はい………………
ni
…あと、お前は勇敢だ。
ドッキリを仕掛ける勇気もあるし、
暴れている兄に立ち向かう勇気もある。
ni
その勇気があれば、
きっとお前はいい男になれるな。
子供鬼
…え……………?
ni
しかし、その勇気のせいで、
人に迷惑をかけることもあるんだ。
ni
お前の勇気を、
今回みたいに悪いことで
使わないようにしろ、いいな?
子供鬼
…………っ!はい!
ni
よし、いい子だ。
兄さんは、子供の頭をポンポンと叩く。
その光景を見て、俺と大先生はあんぐりと
口を開けて固まった。
tn
え…な、えぇ……?
ut
なんやあの兄さんとか言うやつ…
めっちゃキャラ変わるやん……
em
あはは…一応あの人、
問題児グルッペンさんの
兄さんやからな。
em
ああいう暴れん坊の子守りは、
手馴れたもんでしょうよ。
tn
…すげぇな、兄ちゃんって…
俺らが呆然としていると、
急に後ろからよく通る女性の声が響いた。
gr母
まーた人だかりが
できてると思ったら…
gr母
やっぱりあなた達もいたのね!
もう、人騒がせな息子達!
ni
げっ、母さん………
gr
おぉ、ちょうどよかった!
母さん、こいつらをうちに
入れたいのだが……
gr母
それよりも先に、
暴走しちゃった男性の処理でしょ!
どこなの?その男性は!
ni
あー………
母さん、多分それこいつ…
gr母
まぁ!もしかして
殺っちゃったの?!
ni
殺ってねぇわ!気絶だ気絶!
gr母
あぁなんだ、びっくりした。
gr母
とりあえず、その鬼を牢に運ぶわよ。
gr母
牢まで距離あるけど…
ワンワンちゃんなら運べるわよね?
ni
ワンッ…?!
は、運べる!運べるから
本名は言うな!!
gr母
あら、ごめんねワンワンちゃん?
ついつい癖で呼んじゃうのよぉ、
いつも気をつけてるつもりなんだけど…
ni
だから呼ぶなって!
気をつけてるなら呼ぶな!!
gr母
あはははっw
ごめん、ごめんってw
兄さんが顔を赤くしながら
その女性に文句をいい続ける。
tn
…な、なぁ、エミさん。
あの女性って…
em
………っw
あ、あぁ、グルさんと
兄さんの、お母さんやね…w
ut
…なぁ、もしかして、
"ワンワンちゃん"って…w
em
……兄さんの、本名……w
エミさんが、肩をフルフルと震わせながら
笑いを堪えている。
ut
…わん、わん……w
tn
そら本名も隠したなるわな…w
em
………………www
俺らは3人で笑いを堪える。
一通り事が済んだ後、
俺らはグルさんの家へと招待された。















gr母
さぁ、入って入って!
グルさんのお母さんが、
5mほどの高さがある重そうな鉄の門を
軽々とひっぱりガラガラと開ける。

グルさんの家は、御屋敷だった。
そして、デカい。とにかくデカい。
14人も入って大丈夫なのかと不安になっていたが、
こんなにもデカいとそんな心配もすぐ無くなる。
rbr
うえぇ…すっげぇ力持ち…
sha
いや感動するとこそこなん?
syp
やばぁ…コネさん家より豪華…
ci
なぁ…コネさん家も
結構デカいと思っとってんけど…
こりゃあ比べ物にならんなぁ…
zm
すっご…見上げすぎて首痛い…
os
俺も初めて見た時首痛めた。
sn
ちなみに中もめっちゃ広いよ。
ht
何回もお泊まりに行って
何回も探検してるけど、
未だに全部屋回れてないしね…
ko
この見た目で広なかったら
それもそれで凄いけどなぁ…
人間組は、その家の大きさに
まるで宝物を見つけた子供かのように食いつく。
じっくり外見を見物する者もいれば、
颯爽と中に入り暴れ回っている輩もいる。
gr
とりあえず、入ってゆっくり
しようではないか。
ni
あぁ、そうだな。
はやく怪我の手当てもしたい。
tn
………え?怪我?
ni
ん?……あぁ、少しな。
ni
さっきの暴れ鬼のせいで
腕を擦りむいただけだ。
そう言って、兄さんは服の裾を捲って
血だらけの腕をあらわにした。
その腕は結構悲惨に傷ついていて、
正直、病院に行っても大袈裟では無いレベルだ。
ut
うっわ………
なんでこの傷で平然と
いられるんすか…
tn
…この傷、ほんとに
少し擦りむいただけなんか…?
em
まぁ、これくらいなら
すぐ治るしな。
ut
…え、このでっかい傷が?!
gr
あぁ。この傷なら、
2日くらいで痕もなく
消えるんじゃないか?
ut
えぇ…マジすかそれ……
トントンでもそんな
はよ治らんぞ…
ni
人間は違うのか?
tn
いや、この傷なら絶対
痕残るし、2週間くらいは
治りませんねぇ…
em
そんなかかるんか?!
こんなちっぽけな怪我に?!
tn
いや、逆にこっちからしたら
そんなはやく治んのって話っすよ…
ut
なるほどなぁ…
つまり、人間より鬼の方が
タフで傷の治りもはやいと。
ni
……………タフ?
em
大先生…その、"タフ"ってなんや?
ut
…あ、まじか。
"タフ"も通じひんのか。
ut
"タフ"ってのは…
んまぁ、頑丈?みたいな意味。
gr
…なるほど…タフ……
俺らがタフについて語っていると、
門の方から声が響く。
ko
お前らァー!
はよ来んと門閉められっぞー!!
rbr
はよ中入ってこんかーい!!!
gr
…あいつらは、相変わらず
声がデカイな…
tn
とりあえず、中入ろうや。
俺はそう言ってグルさん達を急かす。
そして俺らは、ようやくグルさんの家へと入った。





























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