同居生活。
二日目。
朝6時30分。
柔太朗は目を覚ました。
🤍「……眠い」
隣のベッドを見る。
勇斗はまだ寝ている。
🤍「……」
昨日。
「明日は早いから寝坊しないで」
そう言っていたくせに。
🤍「佐野」
反応なし。
🤍「佐野、起きて」
🩷「……ん」
🤍「朝」
🩷「分かってる……」
🤍「起きてないじゃん」
🩷「あと五分」
🤍「昨日もそれ言ってた」
🩷「……」
また寝る。
柔太朗は。
ため息をついた。
🤍「……知らないからね」
ーーー
10分後。
🤍「佐野」
🩷「……」
🤍「佐野!」
🩷「ん……」
🤍「遅刻するよ」
勇斗が飛び起きる。
🩷「……何時?」
🤍「6時40分」
🩷「……」
時計を見る。
🩷「まだ余裕あるじゃん」
🤍「だから起きてって言ったの」
🩷「ありがとう」
🤍「別に」
勇斗は急いで準備を始める。
その様子を見ながら。
柔太朗は思った。
――朝から疲れる。
そして。
勇斗も。
同じことを思っていた。
――山中、細かい。
ーーー
朝食。
二人でテーブルにつく。
昨日買ったパン。
🤍「佐野」
🩷「何?」
🤍「それ俺の」
勇斗の手が止まる。
🩷「え?」
🤍「そのパン」
🩷「知らないよ」
🤍「袋に名前書いてある」
見ると。
小さく「柔」と書かれている。
🩷「……」
🤍「昨日、分けたじゃん」
🩷「……ごめん」
🤍「もういい」
🩷「怒ってる?」
🤍「怒ってない」
🩷「怒ってるじゃん」
🤍「怒ってない」
🩷「……」
🤍「……」
朝から。
微妙な空気になる。
ーーー
会社。
午前9時。
二人は同じ部署で仕事をしていた。
「佐野さん、山中さん。昨日の資料、確認しましたか?」
🩷「はい」
🤍「確認しました」
「では、この部分を今日中にお願いします」
二人とも。
仕事モードになる。
必要なことだけ話す。
🤍「この数字、前の資料と違う」
🩷「どこ?」
🤍「ここ」
🩷「……本当だ」
🤍「修正する?」
🩷「俺がやる」
🤍「分かった」
仕事では。
意外とスムーズだった。
プライベートより。
仕事のほうが。
まだ話しやすい。
ーーー
昼休み。
同期が二人のところへ来る。
「同居どう?」
🩷「最悪」
🤍「最悪」
また。
同時だった。
「……仲いいじゃん(笑)」
🩷「どこが?」
🤍「全然」
同期は笑いながら去っていった。
ーーー
午後。
仕事が終わる。
二人で社宅へ帰る。
玄関を開ける。
🤍「……疲れた」
🩷「俺も」
靴を脱ぐ。
すると。
勇斗が。
リビングの床に置かれた柔太朗のバッグを見る。
🩷「山中」
🤍「ん?」
🩷「バッグ、そこ置かないで」
🤍「なんで?」
🩷「邪魔」
🤍「あとで片付ける」
🩷「今やってよ」
🤍「今?」
🩷「うん」
🤍「……細かいな」
🩷「何?」
🤍「何でもない」
柔太朗がバッグを持つ。
少し強めに。
自分の部屋へ運んでいく。
ーーー
夕食。
今日は。
二人で簡単な料理を作ることになった。
🤍「何作る?」
🩷「カレーでいいんじゃない?」
🤍「俺、辛いの苦手」
🩷「じゃあ甘口」
🤍「それならいい」
二人で材料を切る。
最初は。
順調だった。
ところが。
🩷「山中、それ切り方違う」
🤍「え?」
🩷「大きすぎ」
🤍「別にいいじゃん」
🩷「火の通り方変わるから」
🤍「じゃあ佐野がやれば?」
🩷「……」
🤍「……」
また。
険悪。
鍋に材料を入れる。
二人とも。
無言。
しばらくして。
🤍「……」
🩷「……」
🤍「ごめん」
🩷「……俺も」
🤍「カレーくらいで喧嘩するの、馬鹿みたいだね」
🩷「うん」
少しだけ。
空気が柔らかくなる。
でも。
まだ。
仲良くなったわけじゃない。
ーーー
夜。
テレビを見る。
柔太朗はソファ。
勇斗は少し離れた椅子。
🤍「佐野」
🩷「何?」
🤍「音、大きくない?」
🩷「普通」
🤍「俺には大きい」
🩷「……」
勇斗がリモコンを取る。
音量を一つ下げる。
🤍「ありがとう」
🩷「別に」
しばらく。
二人ともテレビを見る。
会話はない。
でも。
昨日より。
少しだけ。
同じ空間にいることに慣れてきていた。
ーーー
午後11時。
寝る前。
柔太朗がベッドに入る。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「明日、俺が先に起きるから」
🩷「分かった」
🤍「起こしてほしかったら言って」
🩷「……いや」
🤍「何?」
🩷「自分で起きる」
🤍「そっか」
電気を消す。
暗闇。
しばらくして。
🩷「……山中」
🤍「ん?」
🩷「今日のカレー」
🤍「うん」
🩷「普通にうまかった」
柔太朗が。
少し笑う。
🤍「……それはよかった」
🩷「おやすみ」
🤍「おやすみ」
二人とも。
相手の顔は見えない。
でも。
昨日より。
少しだけ。
声が柔らかかった。
まだ。
「嫌い」が消えたわけじゃない。
ただ。
ほんの少しだけ。
「嫌いなところしか知らない」から。
「知らないところがある」に。
変わり始めていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。