第4話

第4章「雨の日の帰り道」
409
2026/08/28 09:56 更新


同居生活。

一週間。

二人が一緒に暮らし始めて。

まだ一週間しか経っていない。

なのに。

勇斗は。

少しだけ。

この生活に慣れ始めていた。

ーーー

朝。

🤍「佐野、起きて」

🩷「……ん」

🤍「7時」

🩷「……分かった」

🤍「今日は起きるの早いね」

🩷「昨日よりは」

🤍「えらいじゃん」

🩷「子ども扱いしないで」

🤍「ごめん(笑)」

勇斗は。

少しだけ笑った。

以前なら。

朝から話しかけられること自体。

嫌だった。

でも。

今は。

そこまで嫌じゃない。

ーーー

会社。

午前中。

プロジェクトの打ち合わせ。

「佐野さん、山中さん。この資料、今日中にまとめてもらえる?」

🩷「分かりました」

🤍「はい」

二人で資料を見る。

🤍「佐野、こっちお願いできる?」

🩷「うん」

🤍「じゃあ俺、こっちやる」

🩷「分かった」

以前なら。

どちらがやるかで。

すぐに言い合いになっていた。

でも。

今日は。

驚くほどスムーズだった。

ーーー

午後。

上司から修正が入る。

「ここ、二人でもう一度確認してください」

🩷「はい」

🤍「分かりました」

二人で確認する。

🤍「ここ、佐野の数字で合ってる」

🩷「こっちは山中がまとめたほうでいいと思う」

🤍「じゃあそれで」

🩷「うん」

近くにいた同僚が。

二人を見る。

「……最近、喧嘩しなくなった?」

二人が同時に振り返る。

🩷「してない」

🤍「もともとしてない」

同僚が笑う。

「はいはい(笑)」

ーーー

仕事が終わる。

外へ出る。

空は。

朝からずっと曇っていた。

🤍「雨降りそう」

🩷「天気予報、降らないって」

🤍「でも、降りそう」

🩷「山中って天気予報より信用できるの?」

🤍「今日だけはね(笑)」

その数分後。

ぽつ。

ぽつ。

雨が落ちてきた。

🩷「……」

🤍「ほら」

🩷「……すごいね」

🤍「でしょ?」

雨が。

一気に強くなる。

二人は。

会社の軒下へ避難する。

🩷「傘、ある?」

🤍「あるよ」

柔太朗が。

鞄から傘を出す。

そして。

少し考える。

🤍「……一緒に入る?」

勇斗は。

柔太朗を見る。

🩷「いいの?」

🤍「昨日も入ったじゃん」

🩷「そうだね」

二人で。

傘に入る。

ーーー

駅までの道。

昨日より。

少し近い。

🤍「佐野」

🩷「ん?」

🤍「最近、仕事楽じゃない?」

🩷「何が?」

🤍「前より喧嘩しなくなった」

🩷「……まあね」

🤍「俺たち、意外と合うのかも」

勇斗が。

少し笑う。

🩷「それはない」

🤍「即答(笑)」

🩷「でも」

🤍「ん?」

🩷「前よりはマシ」

柔太朗が。

少し驚く。

🤍「……それ、褒めてる?」

🩷「たぶん」

🤍「じゃあ、ありがとう」

ーーー

社宅。

夕食。

今日は二人で。

簡単なパスタを作った。

🤍「塩、これくらい?」

🩷「もう少し」

🤍「はい」

🩷「……ちょっと入れすぎた」

🤍「佐野が言ったんじゃん(笑)」

🩷「ごめん」

🤍「まあ、食べられるでしょ」

二人で笑う。

ーーー

食事のあと。

柔太朗が皿を洗う。

勇斗は。

テーブルを拭く。

🤍「佐野」

🩷「ん?」

🤍「俺、洗うから置いといて」

🩷「じゃあ俺拭く」

🤍「ありがとう」

🩷「別に」

ふと。

二人とも。

手を止める。

以前なら。

「自分でやる」

と言っていた。

でも。

今は。

自然に分担している。

ーーー

夜。

テレビを見ている。

🤍「ねえ、佐野」

🩷「何?」

🤍「敬語やめない?」

🩷「……今さら?」

🤍「だって同居してるし」

🩷「会社では?」

🤍「会社では普通にする」

🩷「じゃあ家だけ?」

🤍「うん」

勇斗は。

少し考える。

🩷「……分かった」

🤍「じゃあ」

少し間を置いて。

🤍「勇斗」

🩷「……」

その呼び方に。

勇斗が少し驚く。

今まで。

「佐野」としか呼ばれていなかった。

🩷「……なんか変」

🤍「そう?」

🩷「うん」

🤍「じゃあ戻す?」

🩷「……いや」

少しだけ。

笑う。

🩷「そのままでいい」

柔太朗も。

笑った。

🤍「分かった」

ーーー

寝る前。

部屋の電気を消す。

しばらく。

静かだった。

🤍「……勇斗」

🩷「ん?」

🤍「おやすみ」

🩷「おやすみ、柔太朗」

初めて。

二人が。

名前で呼び合った。

それだけなのに。

なぜか。

昨日までとは違う。

少しだけ。

距離が近くなった気がした。

まだ。

恋ではない。

まだ。

好きでもない。

でも。

「嫌いな同僚」だった相手が。

少しずつ。

「一緒にいる人」に。

変わり始めていた。

プリ小説オーディオドラマ