同居生活。
一週間。
二人が一緒に暮らし始めて。
まだ一週間しか経っていない。
なのに。
勇斗は。
少しだけ。
この生活に慣れ始めていた。
ーーー
朝。
🤍「佐野、起きて」
🩷「……ん」
🤍「7時」
🩷「……分かった」
🤍「今日は起きるの早いね」
🩷「昨日よりは」
🤍「えらいじゃん」
🩷「子ども扱いしないで」
🤍「ごめん(笑)」
勇斗は。
少しだけ笑った。
以前なら。
朝から話しかけられること自体。
嫌だった。
でも。
今は。
そこまで嫌じゃない。
ーーー
会社。
午前中。
プロジェクトの打ち合わせ。
「佐野さん、山中さん。この資料、今日中にまとめてもらえる?」
🩷「分かりました」
🤍「はい」
二人で資料を見る。
🤍「佐野、こっちお願いできる?」
🩷「うん」
🤍「じゃあ俺、こっちやる」
🩷「分かった」
以前なら。
どちらがやるかで。
すぐに言い合いになっていた。
でも。
今日は。
驚くほどスムーズだった。
ーーー
午後。
上司から修正が入る。
「ここ、二人でもう一度確認してください」
🩷「はい」
🤍「分かりました」
二人で確認する。
🤍「ここ、佐野の数字で合ってる」
🩷「こっちは山中がまとめたほうでいいと思う」
🤍「じゃあそれで」
🩷「うん」
近くにいた同僚が。
二人を見る。
「……最近、喧嘩しなくなった?」
二人が同時に振り返る。
🩷「してない」
🤍「もともとしてない」
同僚が笑う。
「はいはい(笑)」
ーーー
仕事が終わる。
外へ出る。
空は。
朝からずっと曇っていた。
🤍「雨降りそう」
🩷「天気予報、降らないって」
🤍「でも、降りそう」
🩷「山中って天気予報より信用できるの?」
🤍「今日だけはね(笑)」
その数分後。
ぽつ。
ぽつ。
雨が落ちてきた。
🩷「……」
🤍「ほら」
🩷「……すごいね」
🤍「でしょ?」
雨が。
一気に強くなる。
二人は。
会社の軒下へ避難する。
🩷「傘、ある?」
🤍「あるよ」
柔太朗が。
鞄から傘を出す。
そして。
少し考える。
🤍「……一緒に入る?」
勇斗は。
柔太朗を見る。
🩷「いいの?」
🤍「昨日も入ったじゃん」
🩷「そうだね」
二人で。
傘に入る。
ーーー
駅までの道。
昨日より。
少し近い。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「最近、仕事楽じゃない?」
🩷「何が?」
🤍「前より喧嘩しなくなった」
🩷「……まあね」
🤍「俺たち、意外と合うのかも」
勇斗が。
少し笑う。
🩷「それはない」
🤍「即答(笑)」
🩷「でも」
🤍「ん?」
🩷「前よりはマシ」
柔太朗が。
少し驚く。
🤍「……それ、褒めてる?」
🩷「たぶん」
🤍「じゃあ、ありがとう」
ーーー
社宅。
夕食。
今日は二人で。
簡単なパスタを作った。
🤍「塩、これくらい?」
🩷「もう少し」
🤍「はい」
🩷「……ちょっと入れすぎた」
🤍「佐野が言ったんじゃん(笑)」
🩷「ごめん」
🤍「まあ、食べられるでしょ」
二人で笑う。
ーーー
食事のあと。
柔太朗が皿を洗う。
勇斗は。
テーブルを拭く。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「俺、洗うから置いといて」
🩷「じゃあ俺拭く」
🤍「ありがとう」
🩷「別に」
ふと。
二人とも。
手を止める。
以前なら。
「自分でやる」
と言っていた。
でも。
今は。
自然に分担している。
ーーー
夜。
テレビを見ている。
🤍「ねえ、佐野」
🩷「何?」
🤍「敬語やめない?」
🩷「……今さら?」
🤍「だって同居してるし」
🩷「会社では?」
🤍「会社では普通にする」
🩷「じゃあ家だけ?」
🤍「うん」
勇斗は。
少し考える。
🩷「……分かった」
🤍「じゃあ」
少し間を置いて。
🤍「勇斗」
🩷「……」
その呼び方に。
勇斗が少し驚く。
今まで。
「佐野」としか呼ばれていなかった。
🩷「……なんか変」
🤍「そう?」
🩷「うん」
🤍「じゃあ戻す?」
🩷「……いや」
少しだけ。
笑う。
🩷「そのままでいい」
柔太朗も。
笑った。
🤍「分かった」
ーーー
寝る前。
部屋の電気を消す。
しばらく。
静かだった。
🤍「……勇斗」
🩷「ん?」
🤍「おやすみ」
🩷「おやすみ、柔太朗」
初めて。
二人が。
名前で呼び合った。
それだけなのに。
なぜか。
昨日までとは違う。
少しだけ。
距離が近くなった気がした。
まだ。
恋ではない。
まだ。
好きでもない。
でも。
「嫌いな同僚」だった相手が。
少しずつ。
「一緒にいる人」に。
変わり始めていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!