同居生活。
二週間目。
朝。
いつもなら。
先に起きるのは柔太朗だった。
でも。
その日は違った。
午前6時40分。
柔太朗は目を覚ました。
🤍「……」
隣を見る。
勇斗が。
まだ寝ている。
昨日も遅くまで仕事をしていた。
🤍「……佐野?」
返事がない。
柔太朗は。
ベッドから起き上がった。
🤍「佐野、起きて」
🩷「……ん」
🤍「朝」
🩷「……分かった」
いつもの返事。
でも。
声が違った。
少し。
弱い。
🤍「……大丈夫?」
🩷「大丈夫」
🤍「ほんと?」
🩷「うん」
柔太朗は。
少し気になった。
でも。
それ以上は聞かなかった。
ーーー
朝食。
いつものように。
二人でテーブルにつく。
柔太朗はパンを食べる。
勇斗は。
コーヒーだけ。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「食べないの?」
🩷「あんまり食欲ない」
🤍「珍しいね」
🩷「昨日食べすぎたかな」
🤍「昨日、そんな食べてないじゃん」
🩷「そうだっけ」
柔太朗は。
勇斗の顔を見る。
少し。
赤い気がする。
🤍「……佐野」
🩷「何?」
🤍「熱ない?」
🩷「ないよ」
🤍「測った?」
🩷「測ってない」
🤍「じゃあ測って」
🩷「大丈夫だって」
🤍「いいから」
🩷「……山中、朝から細かい」
🤍「いいから」
勇斗は。
少し面倒そうに体温計を受け取った。
しばらくして。
電子音。
柔太朗が画面を見る。
🤍「……」
🩷「何度?」
🤍「38\.1」
🩷「……」
勇斗が。
固まる。
🩷「え」
🤍「だから言ったじゃん」
🩷「でも仕事……」
🤍「休む」
🩷「いや、今日は大事な打ち合わせが」
🤍「俺が連絡する」
🩷「山中」
🤍「休んで」
少し。
強い声だった。
勇斗は。
黙った。
そして。
小さく息を吐く。
🩷「……分かった」
ーーー
会社。
柔太朗は。
上司に連絡を入れた。
「佐野さん、体調悪いんですか?」
🤍「はい。熱があるので、今日は休ませます」
「分かりました。こちらで対応します」
🤍「ありがとうございます」
電話を切る。
柔太朗は。
寝室を見る。
勇斗は。
布団に入っていた。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「今日休み」
🩷「……うん」
🤍「薬とか必要なもの、買ってくる」
🩷「いいよ。自分で行く」
🤍「熱ある人が?」
🩷「……」
🤍「寝てて」
🩷「……分かった」
柔太朗は。
少しだけ笑った。
🤍「珍しい」
🩷「何が?」
🤍「佐野が素直」
🩷「うるさい」
🤍「はいはい」
ーーー
昼。
柔太朗が。
買い物から戻ってくる。
飲み物。
食べやすそうなもの。
必要なものを。
いくつか買ってきた。
玄関を開ける。
🤍「ただいま」
返事がない。
🤍「佐野?」
寝室を見る。
勇斗は。
眠っていた。
柔太朗は。
静かにドアを閉めた。
ーーー
夕方。
勇斗が目を覚ます。
🩷「……」
少し。
身体が重い。
部屋を出る。
すると。
テーブルの上に。
食事が置いてあった。
🩷「……これ」
キッチンを見る。
柔太朗が。
夕食を作っていた。
🤍「起きた?」
🩷「うん」
🤍「まだ熱ある?」
🩷「分かんない」
🤍「測って」
🩷「また?」
🤍「また」
勇斗が。
体温を測る。
🤍「どう?」
🩷「37\.6」
🤍「少し下がったね」
🩷「うん」
🤍「じゃあ、これ食べて」
🩷「作ったの?」
🤍「雑炊」
🩷「……ありがとう」
🤍「別に」
勇斗は。
椅子に座る。
一口食べる。
🩷「……おいしい」
🤍「ほんと?」
🩷「うん」
🤍「よかった」
ーーー
食べ終わる。
勇斗が。
食器を片付けようと立ち上がる。
🤍「何してるの?」
🩷「片付け」
🤍「座ってて」
🩷「でも」
🤍「今日は病人」
🩷「……分かった」
柔太朗が。
食器を持っていく。
勇斗は。
その背中を見る。
昨日まで。
「細かい」
と思っていた。
でも。
今日は。
少しだけ。
ありがたいと思った。
ーーー
夜。
勇斗は。
ソファに座っていた。
柔太朗が。
テレビをつける。
🤍「何見る?」
🩷「何でもいい」
🤍「またそれ」
🩷「今日は本当に何でもいい」
🤍「じゃあこれ」
テレビから。
適当な番組が流れる。
しばらく。
二人とも。
黙って見る。
すると。
勇斗が。
ぽつりと言った。
🩷「……山中」
🤍「ん?」
🩷「今日、ありがとう」
🤍「何が?」
🩷「休むように言ってくれたこととか」
🤍「普通でしょ」
🩷「でも」
少し間。
🩷「俺、仕事休むの苦手だから」
🤍「知ってる」
🩷「……知ってるんだ」
🤍「同じ会社だし」
🩷「そっか」
柔太朗は。
テレビを見ながら言った。
🤍「無理して仕事行っても、結局周りが大変になるじゃん」
🩷「……うん」
🤍「だから、休むときは休めばいいよ」
勇斗は。
黙っていた。
そして。
🩷「……山中って」
🤍「ん?」
🩷「思ってたより優しいね」
柔太朗が。
少し驚く。
🤍「何それ」
🩷「そのまま」
🤍「俺、前から普通に優しいけど」
🩷「それはない」
🤍「ひど(笑)」
二人で。
少し笑った。
ーーー
夜11時。
勇斗は。
寝室へ向かう。
🤍「佐野」
🩷「ん?」
🤍「明日も熱あったら休んでね」
🩷「分かってる」
🤍「ほんと?」
🩷「ほんと」
🤍「じゃあいい」
勇斗は。
ベッドに入る。
電気を消す。
しばらくして。
🩷「……山中」
🤍「ん?」
🩷「今日、助かった」
🤍「うん」
🩷「おやすみ」
🤍「おやすみ、勇斗」
暗闇の中。
勇斗は。
少しだけ笑った。
最初は。
同じ部屋にいるだけで嫌だった。
生活も。
性格も。
考え方も。
何もかも合わないと思っていた。
でも。
二週間一緒に暮らして。
少しずつ。
分かってきた。
相手には。
自分が知らない一面がある。
そして。
それを知るたびに。
「嫌い」という気持ちが。
ほんの少しずつ。
形を変え始めていた。
まだ。
好きではない。
でも。
もし。
この同居生活が終わったら。
――少し寂しいかもしれない。
勇斗は。
そんなことを考えながら。
眠りについた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。