僕たちは閉館ギリギリまで展示物を見て回った。
そして別れの時間が近づき、博物館のゲートを
出たところで僕は重要なことを思い出した。
僕の申し出に、案の定、あなたのあなたの名字さんは首を振った。
しかし、彼女をこのまま帰すわけには行かなかった。
まだ記者が外で張っているかも知れない。
ゲートを抜けた玄関部分で「大丈夫です」と遠慮する
あなたのあなたの名字さんを説得しながらタクシーを手配する。
僕の言葉に、あなたのあなたの名字さんはハッとした表情になる。
あなたのあなたの名字さんの言葉を遮るように、
玄関のロータリーにタクシーが止まった。
あなたのあなたの名字さんの声は聞こえなかったふりをして、
彼女をタクシーの方へと促す。
本当は友人ではなく、マネージャーの瀬戸さんだけれど
僕は穏やかな微笑みを作って彼女に見せた。
納得のいっていなさそうな表情で僕を見る彼女を
タクシーに乗せる。
バタンとタクシーのドアが閉まると、彼女は
自分が乗っている後部座席のウィンドウを下げた。
微笑みを作ったまま、
「もう会うことはないと思うけど」
と心の中で付け足す。
あのエジプトの遺品に囲まれた神聖な空間で、
僕は自分の心が彼女を求めていることに
気づいてしまった。
どんなに最高な演技をしたときよりも、
大きな賞をもらったときよりも、
明らかに気持ちが高ぶっているのを感じてしまった。
僕は彼女に出会うために生まれてきたんだ
とさえ思った。
彼女と共に生きられたら幸せだろうな、と思った。
……でも、彼女は?
僕の心の中で密かに芽生えた気持ちを、
あのフラッシュが焼き尽くした。
僕のいる世界に彼女を引きずり込んではいけない。
……そう思ったのに。
彼女はそう言って、ひまわりのように
朗らかな笑顔を僕に向けた。
僕の心臓がぎゅっと握りしめられたように苦しくなる。
もう彼女に会うことはないと、決めたのに。
だけどやっぱり、彼女の笑顔をもっと見たいと
思ってしまった。
気づけば、そう口にしていた。
僕の言葉に、あなたのあなたの名字さんは
ニコッと笑って小さく手を振った。
そんな彼女を乗せてタクシーはゆっくりと進み始める。
僕は遠ざかっていくタクシーの赤いランプが
見えなくなるまで見送った。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。