昼休みの教室は、少しだけ苦手だ。
笑い声も、楽しそうな会話も、本当は嫌いじゃないのに───
どうしてか、そこにいる自分だけが浮いている気がしてしまう。
誰にも気づかれないように席をたって、向かった先は図書室だった。
本の匂いと、ページをめくる音だけのこの空間は!少しだけ呼吸がしやすい。
窓際の席に座って、適当に本を1冊開く。
けれど、文字は全然頭に入ってこなくて。
ただぼんやりと、外の空を眺めていた。
──そのとき。
低くて、少しだけ素っ気ない声。
びっくりして顔をあげると、そこには一人先輩が立っていた。
慌てて本を閉じて、?少し横にずれる。
先輩は小さく「ありがと」とだけ言って、隣の席に座った。
それだけなのに、なぜか少し緊張する。
(誰だろ、この人……)
横顔をちらっと盗み見る。
無表情で、本を開いてるだけなのに、どこか近寄りがたい雰囲気。
でも──
(……あれ、どこかで見たことある)
考えて、ふと思い出す。
(同じ部活の……先輩?)
まだちゃんと話したことはないけど、何度か見かけたことがある。
名前は、たしか────
思わず小さく呟いてしまった。
その瞬間、先輩の手が止まる。
少しどけ眉をひそめて、こっちを見る。
焦って言葉を並べると、先輩は一瞬黙ってから、
と、興味無さそうに視線を本に戻した。
(やっぱり、ちょっと怖いかも……)
そう思ったのに。
不意に、先輩が聞いてくる。
ぶっきらぼうだけど、それはちゃんと"会話"で。
少しだけ、声が震える。
すると先輩は、ページをめくりながらぽつりと言った。
その呼び方が、なぜか少しだけ胸に残った。
突然の一言に、息が止まる。
図星だった。
何も言えなくてる。
先輩はこっちを見ないまま、静かに続けた。
その言い方は優しくはないのに、どこか救われるようで。
小さくそう言うと、
とだけ返ってきた。
それなのに。
───なんでだろう。
さっきまで苦しかったはずの胸が、少しだけ軽くなっていた。
それで、気づいてしまう。
(……もっと、話してみたいかも)
それがきっと。
玲央奈の、初恋の始まりだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!