第5話

黒い風の呼ぶ夜に
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2025/10/19 05:33 更新
第5話「黒い風の呼ぶ夜に」

 夜のモンドは静かだった。
 昼間の明るさとは違い、風がひんやりとして、星が滲むように瞬いている。
 けれどその美しさの裏で、空気のどこかに“違和感”があった。

 「……風が、ざわめいてる。」
 りとは城壁の上に立ち、遠くを見つめた。
 空とパイモンが隣に立つ。

 「ジン団長が言ってた“黒い風”って、あれのことかな?」
 空が指差す先、森の奥の方で淡く黒い光が揺らめいている。
 「たぶん……あそこだ。」

 ジンの許可をもらい、三人は夜の調査に向かった。
 風が木々を揺らし、草の上には薄い霧が広がっている。

 「ねぇ、りと。怖くないの?」とパイモンが心配そうに尋ねる。
 「ちょっとは。でも……この世界を守りたい。モンドのみんなの笑顔、もう見たから。」
 空が微笑む。「りと、君、もう立派な冒険者だね。」

 ——その時だった。
 森の奥から、低い唸り声が響いた。
 黒い霧が集まり、形を変えていく。
 まるで“人の影”のようなものが現れた。

 「誰だ……?」
 りとが身構えると、影がゆっくりと口を開いた。

 > 「……風を、取り戻せ……」

 その声は、まるで風そのものが話しているように淡く響いた。
 空気が一瞬で重くなる。パイモンが怯えてりとの後ろに隠れる。

 「お前は……何者なんだ!」
 りとが叫ぶと、影はゆっくりと姿を変えた。
 黒い羽を持ち、風と共に浮かぶ青年の姿。
 その目は、どこか懐かしい色をしていた。

 「君……風神バルバトス?」
 空がそう呟いた瞬間、青年の姿がかすかに笑った。

 > 「……違う。私は“忘れられた風”。
  風神が生まれる前に消えた、もうひとつの風……」

 言葉と共に、風が荒れた。
 木々が倒れ、霧が吹き飛ぶ。
 りとの胸の中の“神の目”が強く輝く。

 > 「君の中にも、私の力が眠っている。
  ——思い出せ。“風を裂く者”の記憶を。」

 次の瞬間、りとの頭の中に強烈な光が走った。
 誰かの叫び声、砕ける大地、そして空を裂く巨大な嵐。
 知らないはずの記憶が、鮮明に脳裏を駆け抜けた。

 「やめろっ!!」

 りとが叫ぶと同時に、風が爆発した。
 影は霧のように消え、静寂が戻る。
 空が駆け寄り、りとを支える。

 「りと、大丈夫!?」
 「……うん。でも……今、俺、見たんだ。
  “この世界が壊れる未来”を……」

 パイモンが震える声で言った。
 「りと……まさか、その力って……」

 りとは胸に手を当て、光る神の目を見つめた。
 「……俺の中に眠る“風”が、この世界とつながってる。
  たぶん、それが——俺がここに来た理由だ。」

 夜空に、ひとすじの風が流れた。
 星がきらめき、モンドの鐘が遠くで鳴る。

 ——忘れられた風。
 それは、りとの運命を大きく動かす“鍵”だった。

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