カツン、とゴミ箱に小さな瓶が落ちた。不安と、罪悪感と、愛憎で支配された心臓が、ドクドクと波打つ。息を吐けば、それも外へ流れていくと、信じていたかった。それから、そんなはずはないと、わかっていた。
惚薬、なんて名前はついているが、媚薬の一種。二度目、だった。
誰よりも愛してるの。だから、それ以上の熱で私を焦がしてほしかった。
『あきら』
何よりも不健全な愛を、なによりも健全に注いで、かき混ぜて。
「ん?」
『珈琲、淹れたよ』
カフェインよりも、ずっとずっと苦くて、砂糖よりも、ずっとずっと甘い。そういう愛を、与え合いたいの。ただ、それだけ。我儘なんて言わないでね、きみが好きだから。
ちら、と彼は私を見る。その眼が私を咎めているように感じてしまって、後ろめたさに押される。私だって迷った。こんな薬、毒を盛るみたいなもの。そんなの、いいの?って。二度目だって躊躇した。
でも、倫理観なんてどうでもよくなっちゃうくらい、英が好きで仕方ないの。
「……ん。ちょうどいい」
彼がそう言った直後、珈琲カップを皿に置く音が聞こえ、顔を上げる。飲んでくれたらしい。は、と安堵の息を洩らした。今回もだいじょうぶだったよ。英は、ちゃんと私をだいすきになってくれる。
こんな方法で、短期間の愛を手に入れて虚しくないの?って、心の奥底で思ってないわけもない。でも、そんなのぜんぶ、どうでもいい。短期間でも、何より重い熱を注いでくれるんだよ?いいことだよね!
『英、……すきだよ』
「なに、かわいー。俺も好き」
これだけで満たされちゃったみたい。そうだよね、英は私がだぁいすきなの!効果がきれるとか忘れて、愛に溺れちゃっても罰はくだらないもんね。
英が、もうひとくち珈琲を嚥下したのを見て、さっきまでの罪悪感なんてどこかにいってしまう。
そばに寄ると、触れた左手が熱を持って、指が絡められる。その、自分じゃない体温が、いつもより少しだけ高いのがわかった。媚薬ってそういうものだもんね。
そのまま右腕も掴まれ、引き寄せられる。
ちゅ、と唇が重なり、優しく吸われる。息をするために薄く口を開けると、自分じゃない舌が上顎を這う。ぞくぞくする感覚に、肩が跳ねた。思わず、英の手を掴む力を強める。
珈琲を飲んだばかりで熱く、すこし苦い英の舌が私のそれと重なる。ざりざりと擦られたり、歯をなぞられたり。息苦しくなって口を開けると、また口の奥を蹂躙してきて。思わずふやふやに蕩けた声を出すと、くちびるが離れていった。
「あなた、シよ」
する……っ、と服の裾から手が入ってきて、つうっと腰を撫でた。冷たい手と火照った身体の温度差だけで、ぐずぐずに熔けちゃいそう。
『ん、……っあ、』
英が私にこんなにも夢中になってる。媚薬なんてどうだっていいよね。もう、ただただ幸せで幸せで、死んじゃいそうに嬉しかった。
朝起きたら、隣に英はいなかった。昨日の夜のことはぜんぶ、夢だったんじゃないかって思った。けど、声は掠れていたし、からだも重い。
頬に熱いものが伝った。指先で掬い取ると、濡れている。
私が望んでしたことなのに、なんで泣いてるの。
「あなた?泣いてんの?」
だいすきで仕方ない声が聞こえ、思い切り顔を上げる。声の主である英が近づいてきた。ゆらゆらと不安に揺れる私の手が、英の腕を掴み、引き寄せた。ぎゅっ、と抱きしめると、胸の内に広がったのは、不安と罪悪感と、やっぱり愛憎。
『あきら、英は、わたしのこと好き?』
「すき。バカみたいに、愛してる」
じゃあ、じゃあ。私があなたに毒を盛ったこと、許してね。ぜんぶ忘れて、またいつも通り。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。