第4話

理解
36
2021/08/03 10:34
翌朝


結局、あの後俺も翔に追い出された。
「翔の味方だから」そう言っても、幼い頃から愛されず裏切られてきた翔にとっては、ただの言葉でしか無かった。
澄
...おはよ。
どうだった?
晴
...やっぱり変わらないよ。
帝耀
帝耀
俺らも昨日母さんと話したけどな。
9割翔の悪口。
樋倉
樋倉
助けてあげたいけど.....。
蒼空
蒼空
兄ちゃ!
澄
蒼空の方も気を付けないといけないしねぇ。
澄が蒼空の頭を撫でる。
蒼空は「?」という顔で、首を傾げた。
蒼空にも障がいはあるけど、母さんにも愛されている。
翔とは態度が違う。
そうやって話していると、翔がリビングに来た。
腕から血を流して。
翔
.......
晴
おはよう...ってどうした!?
俺が近寄ると、一歩下がって遠ざかった。
翔
.......
樋倉
樋倉
ど、どうしたの...それ...
帝耀
帝耀
.....まさか、昨日のカッターで...
帝耀が言いかけたところで、母さんが来た。
お母さん
...ほんっとうに邪魔。
澄
...母さん。
もうやめなよ。
お母さん
見ててイライラするのよ。
翔...早く死んでくれない?
翔
.......
樋倉
樋倉
母さんは翔の血を見ても何も感じないの?
お母さん
はぁ?
血?
帝耀
帝耀
...明らかに怪我してんだろ。
お母さん
...知らないわよそんなの。
私には関係ない。
晴
母さん...翔だって...
お母さん
.....何よ!
俺が言いかけたところで、母さんは翔を突き飛ばした。
いつもの暴力。ではなかった。
昨日弟達に色々言われて腹ただしい気持ちがあったんだろう。
いつもより何倍も激しく殴り、何倍も強く蹴っていた。
お母さん
きもいッ!!きもいッ!!
早く死ね!!!
翔
.......
樋倉
樋倉
母さん!
お母さん
本当に何でアンタが産まれてきたのよ!!
私はお兄ちゃん達のような優秀な子が欲しかったのよ!!
帝耀
帝耀
母さん!!
やめろ!
蒼空
蒼空
んえぇぇぇ...
澄
...蒼空はこっちの部屋行こうか。
澄が蒼空を避難させる。
樋倉と帝耀が母さんを止めている時、俺はただただ恐怖で震えていた。
別に母さんが怖かったんじゃない。

母さんにどれだけ暴力を振るわれても、どれだけ傷つく言葉を言われても、顔色ひとつ変えずにピクリともしない翔が怖かった。
お母さん
何よッ!!
母さんは自分の部屋に籠る。
これもいつものルーティーンだ。
樋倉
樋倉
...翔.....
晴
翔ッ!
翔に近寄ると、ぐったりとしている様子だった。
至る所に痣や擦り傷が見える。
出血もしているのに、相変わらず無表情だった。
翔
.......
帝耀
帝耀
翔!
翔
.....何?
樋倉
樋倉
何でそんな.....
晴
どこも痛くないのか!?
翔
.....寝てた。
帝耀
帝耀
...は?
俺と帝耀、樋倉は絶句した。
あの状況で寝てた?
寝れるわけないだろ。

翔は寝てたんじゃない。
意識が飛んでたんだ。
それ程強い衝撃を受けて、頭が麻痺していた。
晴
.......翔...
翔
.....触んな。
翔は立ち上がろうとして、また倒れ込んだ。
小さな嗚咽を漏らして。
翔
ウッ.....!
晴
翔!
樋倉
樋倉
翔...
翔
ッ.......
それでも翔はゆっくり立ち上がり、ふらつきながら玄関に向かった。
俺達は急いで阻止する。
帝耀
帝耀
どこに行くんだ?
翔
.....シマ...潰さないと.....
晴
翔は良い子だろ!
そんな不良の道なんて...!
樋倉
樋倉
何でそんなに不良になりたいんだ...。
翔
.....うるさい.....。
翔は両手で耳を塞いで、小さく嘆いた。
翔
...何が良い子だよ.....。
どうせ僕は悪い子だよ.....。
晴
そんな事ない!
翔
優秀でお母さんから愛されてる兄ちゃん達には何にも分かんねえだろ!
翔はそう叫んで、逃げるように外に出た。
宣言通り、そのまま不良グループで他の不良グループを潰しに行くのだろう。
俺達は最後まで止めることが出来ず、見逃してしまった。
樋倉
樋倉
.....翔.....
帝耀
帝耀
...何で俺らは翔を救ってやれねぇんだよ...。
晴
.......
翔は俺ら家族といることを拒んだ。
学校でクラスメイトと同じ空間にいることを恐れた。
選ぶ道は、悪の道しか無かったんだ。

翔は望んで入った訳じゃない。
消去法で、自分の存在を認めてくれるところを探していったんだ。
そうでもしないと翔が翔自身を否定してしまう、壊してしまうから。
そのサインに俺達は気付いてやれなかった。

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