翌朝
結局、あの後俺も翔に追い出された。
「翔の味方だから」そう言っても、幼い頃から愛されず裏切られてきた翔にとっては、ただの言葉でしか無かった。
澄が蒼空の頭を撫でる。
蒼空は「?」という顔で、首を傾げた。
蒼空にも障がいはあるけど、母さんにも愛されている。
翔とは態度が違う。
そうやって話していると、翔がリビングに来た。
腕から血を流して。
俺が近寄ると、一歩下がって遠ざかった。
帝耀が言いかけたところで、母さんが来た。
俺が言いかけたところで、母さんは翔を突き飛ばした。
いつもの暴力。ではなかった。
昨日弟達に色々言われて腹ただしい気持ちがあったんだろう。
いつもより何倍も激しく殴り、何倍も強く蹴っていた。
澄が蒼空を避難させる。
樋倉と帝耀が母さんを止めている時、俺はただただ恐怖で震えていた。
別に母さんが怖かったんじゃない。
母さんにどれだけ暴力を振るわれても、どれだけ傷つく言葉を言われても、顔色ひとつ変えずにピクリともしない翔が怖かった。
母さんは自分の部屋に籠る。
これもいつものルーティーンだ。
翔に近寄ると、ぐったりとしている様子だった。
至る所に痣や擦り傷が見える。
出血もしているのに、相変わらず無表情だった。
俺と帝耀、樋倉は絶句した。
あの状況で寝てた?
寝れるわけないだろ。
翔は寝てたんじゃない。
意識が飛んでたんだ。
それ程強い衝撃を受けて、頭が麻痺していた。
翔は立ち上がろうとして、また倒れ込んだ。
小さな嗚咽を漏らして。
それでも翔はゆっくり立ち上がり、ふらつきながら玄関に向かった。
俺達は急いで阻止する。
翔は両手で耳を塞いで、小さく嘆いた。
翔はそう叫んで、逃げるように外に出た。
宣言通り、そのまま不良グループで他の不良グループを潰しに行くのだろう。
俺達は最後まで止めることが出来ず、見逃してしまった。
翔は俺ら家族といることを拒んだ。
学校でクラスメイトと同じ空間にいることを恐れた。
選ぶ道は、悪の道しか無かったんだ。
翔は望んで入った訳じゃない。
消去法で、自分の存在を認めてくれるところを探していったんだ。
そうでもしないと翔が翔自身を否定してしまう、壊してしまうから。
そのサインに俺達は気付いてやれなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。