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第5話

ep.5
111
2026/01/04 12:00 更新

元旦の日。新年の空気はまだ冷たく澄んでいて、
神社までの道は家族連れやカップルで賑わっていた。
ジョンウォンは朝から家族と一緒に初詣に来ていた。
お参りを済ませ、父と母、姉と一緒に屋台を回ったり
おみくじを引いたりして楽しい時間を過ごした。

そのあと「お守りだけ買ってきていい?」と
家族に言って、一人で境内のお守り売り場に
向かうことにした。

人混みを縫うように歩いていると ⎯⎯⎯⎯
視界の真ん中に、見慣れた黒のコートが見えた。




「あっ……」




思わず声が漏れると同時に、そのコートを
着た長身の男性が振り返る。

ジェイだった。
彼も一瞬、目を見開いて驚いた表情を見せた。




「ジョンウォンさん、」




名前を呼ばれて胸がキュンとする。
新年の神社で、こんなところで会えるなんて。
軽く頭を下げて挨拶を交わす。
少しの沈黙のあと、ジェイは小さく口を開いた。




「おひとりですか?」
「あ、いえ…家族と来てて」




ジョンウォンがそう答えると、ジェイの表情が
心なしか少し曇ったように見えた。




「…そうですか」




その声が、ほんの少しだけ寂しげで。
ジョンウォンは思わず聞き返した。




「…ジェイさんは、一人ですか?」
「はい。お守りでも買おうかと...」
「え、僕もです!…良ければ一緒に行きませんか?」




勇気を出して言った。
ドキドキしながらジェイの顔を見上げる。
すると彼は一瞬驚いたように目を見開き、
それから ⎯⎯⎯⎯
ゆっくりと、口元が柔らかく上がった。




「…行きましょうか」




笑った。初めて見たジェイの笑顔。
キリッとしたクールな目元が優しく細まり、
普段は無表情の口角がきゅっと上がって…




( わ、笑った…!可愛い…!)




ジョンウォンは心の中で何度も叫びながら、
ジェイの後ろを少し離れて歩き始めた。

背中が大きい。
コートの裾が風に揺れて雪の残る石畳に影を落とす。




( こんなところで会えるなんて、運命みたい…)




頬が熱いのを隠すようにマフラーを少し上げながら、
ジョンウォンはこっそりニヤニヤしてしまった。
お守り売り場の行列に並ぶまで、2人はほとんど言葉を
交わさなかった。
けれど、それでも隣にジェイがいるだけで
もう十分すぎるくらい幸せだった。




____________




お守り売り場の行列は思ったより短く、
10分ほどで2人の番が来た。
ジョンウォンは「商売繁盛」と「健康」の
ふたつを選び、ジェイは迷った末に「縁結び」の
お守りをひとつだけ買った。

お守りをコートのポケットにそっとしまう。
その仕草がなんだか丁寧で、ジョンウォンは
また胸が温かくなった。

売り場を離れ、境内を少し歩く。
屋台の甘い匂いが漂い子どもたちの笑い声が響く。
2人並んで歩くことなんて初めてで、
ジョンウォンはちらちらと彼の横顔を盗み見た。

参道の出口まで来ると、スマホが震えた。
家族からのLINE。




『そろそろ帰ろうか〜』
「あ、ごめんなさい。家族が待ってるみたいで…」




ジョンウォンが画面を見せると、
ジェイは小さく頷いた。




「俺も、そろそろ…」




別れの時間が来た。
2人は少しだけ立ち止まって向き合う。
ジョンウォンは名残惜しくて、どうにか会話を
続けようとしたけど言葉がうまく出てこない。
するとジェイが先に口を開いた。




「お店、いつからですか?」
「あ、えっと、5日からまた通常営業です!
年末年始休ませてもらってて.....」
「…じゃあ、5日にまた行きますね」




その言葉に、ジョンウォンの心がぱっと明るくなった。




「待ってます!ジェイさんが来てくれるの
いつも楽しみにしてるんです」



思わず本音がこぼれてしまって、
慌てて口を押さえるジョンウォン。
ジェイは一瞬目を丸くして、それからまた
あの可愛い笑みをちらりと浮かべた。




「…ありがとうございます」




そう言ってジェイは背中を向けた。
黒いコートが風に揺れ、長い脚でゆっくりと歩き出す。
ジョンウォンはその背中を見送る。




(もっと話したかったな…)




胸の奥が少し疼くのを感じる。
するとジェイは歩き出して数歩のところで
ピタッと立ち止まって、振り返る。
そしてまたこちらへ早足で戻ってくる。




「…あの」
「はい、?」




ジョンウォンがどきどきしながら見上げると、
ジェイは一度深呼吸をして少し声のトーンを落とした。




「……連絡先、教えてもらえませんか」
「…え!?」




突然の言葉に、ジョンウォンは声を上げてしまった。
ジェイの顔が心なしか赤い。耳まで少し赤くなってる。
それは寒さのせいか、それとも......

ジェイは視線を少し横に逸らしたまま、
スマホをそっと取り出した。




「…ダメ、ですか?」
「い、いえ!全然…!」




ジョンウォンは慌てて自分のスマホを出し、
手が震えるのを隠しながら画面を開く。
2人並んで立ち、連絡先を交換する。

ジョンウォンは自分のトーク画面に「ジェイ」の
名前が表示されるのを見て夢みたいに思った。
ジェイはスマホをポケットに戻し、
少し照れたように咳払いをした。




「…じゃあ、また連絡します」
「はい…!」




ジェイは今度こそ背を向け、遠ざかっていく。
ジョンウォンはその姿が見えなくなるまで
ずっとその場に立っていた。
スマホを握りしめて、画面を見つめる。
新しく追加されたジェイのトークルーム。
まだ何もメッセージはないけれど、
それだけで胸がいっぱいになった。




( ジェイさんから連絡先を聞いてくれるなんて…)




夕暮れの空がオレンジに染まる頃、
ジョンウォンは家族の待つ場所へ戻りながらも
にやにやが止まらなかった。
お守りの袋をもう片方の手で大事に握りしめて。
今年は、絶対にいい年になる。
そう確信しながらジョンウォンは家路についた。

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