今日の音楽番組出演を最後に、
三週間のカムバック期間が幕を閉じる。
最後のステージだからと特別な演出として派手に紙吹雪を降らせると、ファン達は目をキラキラと輝かせて喜んでいた。
何度見ても僕はやっぱりその顔が好き。
今の季節に沿った、冬の始まりを歌う曲。
上から舞い落ちてくる白い紙吹雪がまるで本物の雪のようで綺麗だった。
元々一人でのびのび歌うのが好きだったのだけれど、こうしてファンからの歓声を浴びながら歌うのも悪い気分じゃない。
歌手の道を選んだ事は僕の人生の中で最も大きい決断だ。
この道が不正解にならないように試行錯誤しながら生きている。
一度この世界に踏み入ってしまったからにはもう後戻りは出来ないのだと、そう覚悟もしている。
既に少し恋しいステージを背に楽屋に戻ると、マネージャーのチャニヒョンが水ペットボトルを手にビッグハグで出迎えた。
勢い良く筋肉男に文字通り抱き締められる。
オーストラリアで生まれ育ったからか、
いつもこの人は距離が近い。
今は肌寒い季節だからまだしも夏にも同じ事をやってくるから酷い。
初対面時は礼儀正しい人だって印象だったからこそ、ヒョンが僕のマネージャー担当になった当初はかなり戸惑った。
もう今は諦めの境地に入って、されるがまま状態だ。
「もういいよ」ってヒョンの背中を二回ぽんぽん叩いて合図をすると、素直にすぐ離れてようやくペットボトルを僕に手渡した。
「俺がスンミニの一番のファンだから」って言い張るヒョンは時々こうしてストレートに僕を褒めてくれる。
ヒョンからのベタ褒めの言葉は何度聞いても慣れなくて、気恥ずかしい。
ヒョンは仕事もそつなくこなして、メンタルケアも自然で、暖かい人で、
まさに僕の描く理想的な大人像そのもの。
本人には滅多に言わないけど、ヒョンが僕のマネージャーでいてくれる事が凄くありがたい。
仕事の話において深く考えないで欲しい事って何?
ってそう質問しようとしたけど、ヒョンの言う通りに一旦話を聞いてみる事にした。
普段なら、さらっと仕事内容を言う人だから何か特別な理由があるんだろうなって察しがつく。
…そう思った途端、ちょっと緊張してきた。
僕これから何言われるはめになるんだろう。
ヒョンは少し言葉に悩むような素振りを見せた後、真っ直ぐに僕の目を見つめた。
歌一筋でやってきた僕にドラマのオファーが来た事は衝撃的な事ではあったけれど…。
ハードルを上げすぎたというか、
緊張させられた割には案外平凡な。
歌手がドラマに出演するなんて珍しい話でも無いし。
何をそんなにヒョンが言葉に悩んでいるのか全く検討がつかない。
僕の声を遮るような大きめの声。
自分でもその声に驚いたのか、周りにいたメイクスタッフさん達にペコペコ頭を下げていた。
今度はちゃんと周囲を見渡してから、僕にしか聞こえないくらいの声量でそう言う。
ヒョンの言う通り、今よりももっと世間の人に認知される為にはドラマ出演は絶好のチャンスであるのが事実だ。
僕だって、ドラマに出るのが嫌だとか演技したくないだとかそんな気持ちは一切無い。
ただ、怪しすぎるってだけ。
そう問い詰めるとまたヒョンは返事に困っているのか口をもごつかせる。
五歳児の子供が駄々をこねるように僕の手をぶんぶんと振り回す。
チャニヒョンは幼児退行すると面倒だ。
こうなると意地でも僕の言う事を聞かなくなる。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。