雪のように、桜はひらりひらり落ちていく。
飛び立つ羽を持っているかのように。
風に乗って、遠くまで飛び立って、
新しいところにたどり着く。
雲よりも速く。僕らよりも速く。
例えそれが嵐であろうと、それで地面に落ちたとしても、
雨水がそれを押し流して、また運ぶ。
青空に、桜はよく映える。
羽のない僕たちは、それが羨ましいのだろうか。
「俺、転校することになったんだ。」
屋上で2人きりだった。
いつも、よくここを2人の秘密基地と称して遊んでいた。
夕焼け空が山を隔てて遠く、遠く感じられる。
少し風が吹いて、それに呼応する水面のように
桜の波ができて、二人で見る毎春のこの景色が
なんとも言えなく、好きだった。
それを見ながら、突然、俺よりも背が低くて、
色白で、細身の彼は言った。屋上の安全柵にもたれながら。
当たり前のことを言うように言った。
それが楽しみだと言わんばかりの口調で。
「そっか。」
俺は理解しえなかった。
転校?それって、もう会えないということ?
それでも、俺の口から出たのは、静かに彼を肯定する言葉。
彼の言葉に対して考える度、
俺の背中に何かが取り憑いたように自分の身体が重くなる。
寒くなる。
「会えなくなっちゃうな、もう。」
ははは、と。ニコニコとしながら彼は言った。
「いつ?」
「4月の終わりごろ。」
「どこに行くの?」
「どーこだったっけ...なんかでも遠いところ。
会えっかなぁ、また。ガッチさんと。」
なんでさ、なんでそんな笑っていられるの?
1991年、俺は恋をしていた。
その恋は、容赦なく神様によって壊された。
牛沢という、身長が低めで、
とにかく声が良くて、面白くて、
どこか可愛くて、色んな女子にモテているこの男。
俺はこの男の親友、という立ち位置だった。
でも、いつからだろう。
その"親友"が"好き"に変わったのは。
どれだけ回想しようと、この出来事が___。
などと言うのは存在しなくて。
彼との過ごした記憶、日々の積み重ね。
これが間違った感情だってのは分かってる。
「_____分かってる。」
歯を食いしばりながら、
溢れそうな涙を堪えようと、瞬きを数回する。
彼は幸いな事に今の独り言は聞こえていなかったらしい。
柵にもたれて、桜を見ていた。
そんな横顔をしないで。そんな顔をしないで。
俺から離れないでよ、ねぇ。
嘘だと言って。またすぐに会えると言って。言ってよ。
「そんな悲しい顔、すんなって。
ガッさんのことだし、すぐに俺以外の親友、できるよ。」
君のいない人生なんて、耐えられる気がしない。
「...うん。分かってる。
うっしーも、頑張ってよ。別のところでも。」
牛沢は少しだけ悲しそうに微笑んだ。
それで、"あとちょっと、ガッさんと何して過ごそう。"
とだけ俺に言って、何も言わなかった。
*
_____高校の卒業式。
彼が居なくなってから2年が経った。
自分の本心とは裏腹に、
しっかりと、着々と時間は流れて行った。
卒業写真に君はいない。
みんなの名前を描き合う最後のページ、
君の名前はない。
綺麗な桜がはらはらと落ちていく。
そのうちの1枚が俺の頭を撫でて、下に落ちていった。
まるで、別れを切り出されたあの日のように。
君は付き合っている人はいるのかな?
好きな人、出来たのかなぁ。
もう、会えないのか。
連絡先は、スマホを変えてしまったようで
電話をかけても出ない。
仕方ない。
彼のことは諦めるしかない。
....そうやって何度思ったことか。
何度も何度も何度も何度も思ったんだ。
でも、消えない。消えないんだ記憶から。
君は、やっぱりいなかった。
女々しい。女々しいよ俺。
醜いよ。たかが1人だぞ?
せめて....せめて....
俺との別れを、惜しんで欲しかった。
なんで俺は、あいつと別れなきゃいけなかったのかなぁ?
ねぇ、なんでだよ。なぁ。
転校は、俺の全てを壊した。
高校2年なんてみんなの関係が出来上がっていて、
馴染めるに馴染めない。
1人、窓際の後ろの席で、騒がしい教室で
頬杖をつきながら、ただ、ひたすらに思っていた。
____あの日。
最後に別れる時の顔は、
"笑顔"であって欲しかった。
だから俺は"嬉しい"振りをした。
そうしたら、彼はそんな風に返してくれた。
今にも泣きそうだった。彼も、涙が滲んでいた。
でも、泣いて欲しくなくて。
なぁ。俺なんかの為に泣かないで。
笑ってよ。俺、アンタの笑顔大好きなんだ。
適当に日々は過ぎていった。
やることだけこなして、ただただ日々は過ぎていった。
あの日のことを思うだけで、
なにか重いものが心にのしかかる。
苦しい。なんで、別れるのがそんなに嫌だったのか?
ずっと傍にいたかったんだ。いたかったんだよ。
この5年後、俺らは大学で出会うことになる。
ごめんなさい。
すっごい前から書いてたんですけど....
ちょっと転校の部分(主転校3回経験済み)書いてたら
辛くなってきちゃって...
没で申し訳ないが供養。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。