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第2話

序章
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2023/05/02 02:18 更新
高校のグラウンドが騒がしい中、
面白そうなものも、騒音も何もない質素な空間にいる3人の少女は、ベットで横になりながら、そのうちの一人が、外を眺めていた。どの少女も虚な目をしており、笑うことも悲しむことも、一言も発することはなく、時間だけが過ぎている。
その中『保健室』と字が刻まれたプレートが飾られてあるドアをガラガラっと音を立て女性の養護教諭が入ってきた。
彼女は「歩斗ほとさん、お薬です。」と優しく、澄ました声で一言。
「………」
歩斗と呼ばれた少女は受け答えをせず、弱々しい体を一生懸命に動かし、何個もの錠剤や粉薬を飲んだ。

「最近の調子はどうですか?」と静かに養護教諭が言う。
歩斗と呼ばれた少女は笑顔を作った。無理矢理作った笑顔のようにも見えた。
高校一年生 歩斗 香凜ほと かりんは大病を抱えていた。
香凜は外に、自由に憧れていた。
♢♢♢
ドアノブに手を掛ける直前、ボカーン!という爆音と同時に「うぎゃー!」とコミカルな叫びが聞こえた。
いつものことと分かりながらも、「大丈夫?」と声をかけ、『研究室』というプレートが貼られたドアのノブに今度こそ手を掛け開ける。
そこにはピンクの何かに染められた研究室と女子中学生がいた。
「ちょっと奈鳥!何やってんの!?」と予想以上にヤバい事態に、思わず叫んだ。
真空寺 奈鳥しんくうじ なとり
ケホッ…ケホッ…遅いぞ瑠璃香るりか
坂本 瑠璃香さかもと るりか
いやいや、あともうちょっと早く入ってたら私もピンクになっちゃってたよ!
真空寺 奈鳥しんくうじ なとり
うーん…今度こそ病気の子供達を助ける薬が完成すると思ったんだが……
坂本 瑠璃香さかもと るりか
いや、こんな化学反応するやつを病気の子に服用させちゃダメでしょ!!
奈鳥が化学反応で研究室を汚して、こんな会話をしながらデッキブラシで壁や床を擦り、研究室を綺麗にする。この流れが日課になっているような気がする。

真空寺 奈鳥は世界中の病気の子供を救う為、毎日研究に励んでいる。男っぽい口調が特徴。

奈鳥に手慣れた対応を取るのは坂本 瑠璃香。
世界の為に一生懸命な奈鳥に感動し、助手的立場になったものの、変な化学反応しか起こさないので苦笑いの日々。瑠璃香は引っ込み思案な性格だが、奈鳥に対しては元気にツッコミができる。
♢♢♢
この町で一番大きい電波塔に、足を揺らしながら座っている薄桃色ショートヘアの少女がいた。
瞳は少女漫画の様にハイライトがふんだんに入っており、黄色だ。
学校の紋章入りのセーラー服のようなコスチュームは大量の花で飾られている。"魔法少女"だ。
スノーホワイト
………
スノーホワイト
(リップルはどうしてるかな……)
魔法少女としての名は「スノーホワイト」。
スノーホワイトはそんなことを考えながら魔法の端末マジカルフォンを手に取り、仲間である魔法少女「リップル」にメッセージを送った。
スノーホワイトはかつて魔法の国の住人の"ファヴ"による『魔法少女人材育成計画』の数少ない生き残りの一人で、本物の魔法少女である。
スノーホワイト自身はこの計画惨劇で二つのことを学んだ。一つ、怯えているだけでは何も変わらない。二つ、後悔する前に行動する、ということだ。



その時、ピロリンと通知音がし、スノーホワイトは魔法の端末マジカルフォンを手に取った。
魔法の端末マジカルフォンから来た通知を見たときスノーホワイトの目は大きく見開かれた。
スノーホワイト
どう……して

 ♦︎魔法の国から魔法少女へのお知らせ♦︎
"また新しく16人の魔法少女の人材育成計画を始めるよ!"残念だけど、魔法少女人材育成計画はこれが最後!悲しいねーシクシク 気を取り直して、魔法少女人材育成計画を行う地域はここだよ!
       ↓
矢印の先には、スノーホワイトが今いる地域の名前が載っていた。
スノーホワイトは電波塔の上から行き交う人の群衆を見つめる。中高生も沢山いる。魔法少女になってしまうのはあの中高生、はたまた、主婦?男性のサラリーマンかもしれない。とにかく、誰にしても魔法少女人材育成計画に参加させるわけにはいかない。
スノーホワイトは電波塔を飛び降り、もう一度「リップル」に連絡を取った。
♢♢♢
中学校の『生徒会議室』の看板が貼られたドアが勢いよく開く。
由奈ゆうなー!終わったか?もう休み時間なったネ!」と元気で明るく、少し中華娘っぽいなまり方をした声が部屋全体に響く。
未住帆 由奈みずほ ゆうな
まだ終わってないよ!娃奈えな、静かにしてネ……
由奈と呼ばれた少女は、明るく元気な声の少女ととても似ている声となまり方で言う。
由奈は生徒会長だ。忙しいのか、少し怒っている。
未住帆 娃奈みずほ えな
んもー!由奈は働きすぎ!少しは休憩するね!
娃奈と呼ばれた少女は文句を言いながらも由奈をじっと待っている。
娃奈は、由奈と一緒に休み時間を過ごしたい様だ。
未住帆 由奈と未住帆 娃奈は一卵性の双子だ。小学生の頃、中国から引っ越してきた。
しかし似ているのは声と見た目くらいで、二人は反対だった。好きなものも、性格も。
まるで、生きてる世界が違うかの様に。
♢♢♢
廃棄ガスの匂いが漂う工場の裏の空き地には、血溜まりができていた。
「手応えのない奴ばっか……つまんな」
そう吐き捨てるのはこの町の高校で最も恐れられている久城 奈々くじょう ななだ。女子とは考えられない腕力と体力を兼ね備えている。例えるなら鉄パイプを捻じ曲げることが簡単にできる。それくらいの力だ。

奈々は人を傷つけることを罪だと思っていない。
血溜まりの中に沢山いる人の中でも角刈りの体格が良い男子を踏みつけ、グリグリと靴底で腹をえぐる。
久城 奈々くじょう なな
処理めんどくさっ。
と言いつつ4、5人の遺体を一気に抱えて河原へほうむる。
久城 奈々くじょう なな
片付け終わりっ♪スッキリしたぁ〜
と大きく背伸びする。
決して体操や運動の後ではない。人をあやめた後の快感の背伸びだった。
♢♢♢

「位置について……用意………!!」パァァン‼︎
グラウンドに掛け声と、銃声が鳴り響く。その時、高い所で結んだポニーテールが特徴的な女子中学生が走り出した、
走る__走る。とても速い。10mメートル走の記録表には速見 照果はやみ てるか……1.90と記録されていた。ポニーテールの女子中学生は速見 照果という。
「速見先輩!お疲れ様でした!」と後輩の女子生徒が可愛い笑顔で声をかける。照果は汗水を光らせながら
速見 照果はやみ てるか
ふぅ……聖原ひじりばらさんもお疲れ様。帰っていいよ。ありがとう。
と笑顔を作る。
中学校のグラウンドは野球部とサッカー部に占領せんりょうされているため、陸上部はいつも綾波あやなみ小学校のグラウンドで練習をするのだ。その時、照果は気づいた。


綾波小学校の教室に誰かいる。。後輩の聖原が帰ったことを確認し、照果は学校の三階まで階段を登る。現在の時刻は6時。普通、生徒が残っている時間帯ではないはずだ。そんなことを考えている内に外から生徒が見えた教室、5年1組の教室に着いた。
教室を覗くと、そこには肩までの長さの黒髪に、黒い瞳を持った少女がいた。分厚い本を読んでいるその子に、照果は声をかける。
速見 照果はやみ てるか
ねぇねぇ?今6時だよ?良い子はお家に帰る時間だぞ?
照果はちょっと子供っぽい口調と優しい声で女の子に話しかけた。
その時、黒色のセミロングの小学生が口を開いた。
深月 瑠奈みづき るな
あっ………
深月 瑠奈みづき るな
どうも……ごめんなさい……
小学生は蚊の鳴くような声で言った。
空気と同化しているかのように存在感が薄かった。いや、正確には自分から目立たないように、気づかれないように、隠れてると言った方が正しいかもしれない。
彼女は「それでは……」と軽い会釈えしゃくしながら小さい声で言ってから、長い階段を駆け降りた。
照果は一息ついてから階段を降り、無事に帰宅した。
♢♢♢




この中高生らが魔法絶望希望で溢れ返った世界に引き込まれるなど、誰も知らない事だった。

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