第21話

#21 帰還の方法
360
2025/08/19 08:00 更新

中也side



俺があなたの病室を出た頃、
空はすっかり夜の色に染まってしまっていた。


雲の狭間から顔を覗かせるおぼろ月が
俺を嘲笑うように見ている様な気がする。






太宰の糞野郎が出ていった後、
俺はあなたと 幾つか世間話をしていた。



あなたが目覚めたのが昼頃だから、
それなりの時間 話してしまったらしい。

道理で、喉が乾いているわけだ。


15中原中也
15中原中也
 なァ、これからどうすンだ? 
中原中也
中原中也
 …… 

“これからどうするか”か。

俺はこの時代に来てから今日まで
あなたの未来のことしか 考えていなかった。



だが、それが終わった今、
恐らく “俺が次にすべきこと”は判っている。

中原中也
中原中也
 手前テメェはあなたの側に居てくれ。 
中原中也
中原中也
 今のあなたには、
手前テメェが必要だ…と思う。
15中原中也
15中原中也
 ……判った。 



15中原中也
15中原中也
 未来の俺はどうすンだ? 
 
中原中也
中原中也
 俺は…未来に帰らなきゃならねェ。 
 
15中原中也
15中原中也
 …まァ、そんな予感はしていたぜ。 
15中原中也
15中原中也
 …元気で居ろよ。 
中原中也
中原中也
 ……はっ、 

自分で自分に“元気で居ろよ。”なんて、
可笑しな話だ。

だが、言いたいことは判る。
中原中也
中原中也
 お互いにな。 
15中原中也
15中原中也
 あァ。 


お互いに背を向け、
お互いが進むべき方向を向いて歩き始める。


おぼろ月に見守られながら
俺は俺に別れを告げた。









赤レンガ倉庫。

思えば全て、此処から始まった。




何処か見覚えのある景色、昔よく歩いた路地。

過去の俺が見た世界が俺の目の前にあった。




初めは動揺もした。驚きもあった。

死んだ筈のあなたの姿や声をもう一度聞けて
心の底から嬉しいと感じた。



だが、もうそれは過去の事じゃねェ。

その為に 俺は今日まで紛争したンだ。






そして、俺の度もこれで終焉を向かえる。


中原中也
中原中也
 やっぱり来ていたか。 

赤レンガ倉庫の影に佇む
黒い外套の持ち主にそう告げた。

彼奴あいつははぁと溜め息をひとつ付いて、
月の下へと姿を現す。




退屈で塗りつぶされた瞳は
普段よりも漆黒の色を映していた。

…否、思えば太宰が子供ながらの瞳をしていたのは
あなた姉さんと居るときだけだった。


15太宰治
15太宰治
 …僕だって、同じ時代に
中也が二人なんて厭だし。
中原中也
中原中也
 まァ、だよな。 

俺と太宰は それ以上の会話は交わさなかった。





俺が未来から来た場所に立ち、
太宰が触れる。

すると間もなく俺の身体が光を放ち、
視界が真っ白に染まっていく。



「未来に戻る。」
それを実感した。


中原中也
中原中也
 じゃあ、未来で…な。 
15太宰治
15太宰治
 …… 。



俺の身体と視界は光に包まれ、
視界の眩しさに目を瞑った。


この時代で最後に見るのが太宰のこんな顔なんて、
……なんだか、気が滅入りそうだ。







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次に瞼を開けると、
俺は視界に映ったものに思わず眉を潜めた。


どういう状況だ、これは。


中原中也
中原中也
 ……なァ、太宰。 
手前…人の顔で何してンだ。
太宰治
太宰治
 あ、起きたんだ。 
中原中也
中原中也
 質問を無視すンじゃねェ…! 

俺はそう言いながら足を思いっきり上にあげ、
糞鯖に蹴りを入れようとする。

しかし糞鯖は身軽そうに後ろへ飛んで
俺の攻撃を回避する。


……本当に、腹立つ野郎だ。


中原中也
中原中也
 …… 
太宰治
太宰治
 え、なに。 
太宰治
太宰治
 いきなり目を覚ましたと思ったら。 

太宰の様子を見るに、
此処は過去に飛ばされる前

俺が敵と戦っていた場所だろう。


そこまで時間は経ってないように見える。

太宰治
太宰治
 真逆まさかまだ寝ぼけてるの? 
太宰治
太宰治
 おーい。寝坊助中也ー。 
中原中也
中原中也
 …… 

…そうだ。あなた…!

あなたは、どうなった?


ちゃんと、生きていンのか?
元気で暮らしてンのか?





確かめたい。
あの後、どうなったのか 確かめたい。

中原中也
中原中也
 りぃ。用事を思い出した。 
太宰治
太宰治
 はぁ?! 
太宰治
太宰治
 真逆まさか後処理全部押し付ける心算つもり
厭だよ、私。絶対に。
 
太宰治
太宰治
 そもそも、何処に行くわけ? 
中原中也
中原中也
 あ?あなたの所だよ。 
太宰治
太宰治
 ……っ 


俺はそう答えるや否や
太宰に背を向けて走り出した。


早くあなたに会いたい。その一心だった。





あなたが何処に居るのか。

それは既に判っていた。




俺は、過去の俺にあなたと住む上で
最適であろう場所を伝えていた。


だから。恐らく______。




中原中也
中原中也
 …あァ。やっぱりだ。 

過去の俺が 俺の助言を聞いてくれたことに安堵する。

俺が辿り着いた一軒家の表札には
俺の名前と、「中原あなた」の名前があった。





俺は息を肺一杯に溜めて、チャイムをならした。

間もなく、中からバタバタと音が聞こえて
扉がガチャ…と開く。

あなた
 あれ…中也? 
中原中也
中原中也
 ぁ…… 

あァ、あなただ。

俺が知る未来で、死ぬ筈だったあなた。



だけど、今は俺の目の前に居る。

可愛い声で、可愛い洋服で、
可愛いエプロンなんて 身につけて。
あなた
 鍵は、どうしたの? 
中原中也
中原中也
 あ、…そう、だな。 


あなたが生きてることが嬉しくて失念してたが、
言われてみればそうだと思った。






此処はあなたと俺の家なのだから
俺は鍵を持っている筈だった。


感覚のまま外套のポケットに手を入れると、
ジャラ…と金属が擦れるような音が聞こえる。


それを取り出してみると、矢張やはり家の鍵だった。

中原中也
中原中也
 そう…か。俺は、あなたと…… 
あなた
 …… 




あなた
 ……もしかして、中也。
過去から戻ってきたの?
中原中也
中原中也
 …っ! 

あなたの言葉に不意を突かれ
思わず目を見開いてしまった。

あなた
 あ、ごめんね…! 
あなた
 何時もと雰囲気が違ったから… 
中原中也
中原中也
 …… 

あなた曰く、俺が未来に戻ったあと、
過去の俺があなたの側に居てくれたらしい。

少なくとも、今朝俺を見送ったときまでは
何時もの俺だった。



恐らく、俺が過去から戻ってきたことで
俺の意識が切り替わったのかもしれない。

……まァ、憶測にしかすぎねェが。


あなた
 ……ねぇ、中也。 
あなた
 少し散歩しない? 
中原中也
中原中也
 お、おう。いいぜ。 
折角だしな。
あなた
 うん。……ありがとう。 


そう言った時のあなたの表情は
少し 儚げな顔をしている気がした。

否、きっと ただの気のせいだろう。





あなたの表情に隠れる影に触れるのを怖れ、
俺は心の何処かで“そうあってほしい”と祈っていた。

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