第4話

第三章:月光プログラム
81
2025/06/16 11:00 更新
白い廊下の奥、扉が見えた。
けれどその前で、フィリックスは立ち止まった。
FL
FL
この先に進めば……もう、戻れない。
彼はそう言って振り返る。
その瞳は、さっきまでよりも静かだった。まるで、遠い記憶の底から何かを掘り起こしているような顔で。

ハンは黙ったまま、壁に手をついた。
冷たい感触。
表面は硬質ガラスのように滑らかで、まったく温度を感じさせなかった。
HN
HN
さっきから……頭が変なんだ。誰かの声がして、でも、誰のものなのか思い出せない。
まるで……自分の中に、もう一人いるみたいで。
フィリックスは頷いた。
FL
FL
それが、“目覚める前兆”だ。
HN
HN
……どういう意味だ。
FL
FL
君はずっと、“演じるために作られた人格”で生きてきた。
でもその奥には、もう一つ――“演じる前の君”が眠ってる。
今、その人格が目を覚ましかけてるんだ。
HN
HN
俺は……二人いるってことか?
FL
FL
いや、どちらも“君自身”だ。
ただ、選ばされてきた君と、選ぼうとしている君。
その違いだよ。
ハンは天井を見上げた。
人工的な照明が、どこまでも白く、どこまでも無機質に瞬いている。

一度も消えたことのない“昼”。
一度も見たことのない“夜”。
HN
HN
“月の椅子”って……何なんだ。
FL
FL
君が“夜”を見た最初の場所。
静かな沈黙が落ちる。

フィリックスの声は優しいのに、どこか凍てつくような温度を帯びていた。
FL
FL
君が――自分で、“夜”を選んで、
すべてを壊した“最初の舞台”だ。
ハンはゆっくりと息を吸う。
乾いた空気が肺を満たしていくのに、どこか呼吸が浅くなる。

(思い出せそうで、思い出せない。)

その感覚が、恐ろしかった。
だがそれ以上に、懐かしかった。
HN
HN
俺は……そこに戻るべきなのか?
フィリックスは一歩近づき、ハンの目をまっすぐに見た。
FL
FL
戻るんじゃない。
“始める”んだ。すべての続きを。
フィリックスの手の中に、銀色の鍵が再び現れた。
月の形に似た、歪んだ円のモチーフ。
鍵の中心に、小さく刻まれた数字――「03」。
FL
FL
君がその扉を開けた瞬間、この“世界”は壊れ始める。
でも同時に、“君”はようやく“自分”を取り戻せる。
ハンは鍵を見つめたまま、何も言わなかった。
けれど胸の奥が、微かにざわめいていた。

遠くで、また何かが崩れる音がした。

フィリックスが最後に囁くように言った。
FL
FL
行こう。“物語の外側”へ。

プリ小説オーディオドラマ