🩷side
柔太朗はリビングのソファにぼんやり座っていた。
首まですっぽりブランケットに埋まって、何をするでもなくただ空中をぼうっと見ている。
舜太が「じゅう、はやちゃん来たよ」、と声をかけた。
舜太の言う通り、柔太朗は彼の声に一切反応を示さなかった。
そっと柔太朗の頬を包み込む。
柔太朗は本当に何も食べていないみたいで、元々ほっそりしていた頬が今では不健康にこけている。
隈もひどくて、寝れていないんだろうなというのがすぐに分かった。
柔太朗の目がゆっくりと動く。
数秒かけて俺の顔に焦点が合って、さらにその数秒後に小さく名前を呼ばれた。
流石に人前ではPlayもCareも出来ない。
柔太朗の手を取って立ち上がらせ、途中で水とゼリー飲料を確保して柔太朗の部屋に向かう。
今日はとりあえず、柔太朗に飲み食いできるようになってもらわないと。
柔太朗の部屋に入る。
柔太朗は俺に手を引かれるまま大人しく後ろをついてくるけれど、顔は俯いていて表情は読めない。
ベットに座って隣をぽんぽんと叩くと、柔太朗は俺の足元の床に膝をついて座った。
Commandを出しても、柔太朗は俺の足に擦り寄るだけで床から立ち上がることはなかった。
仕方ないので俺もベットから降りて床に座る。
同じ高さで目を合わせると、柔太朗の目が不安そうに揺れた。
柔太朗の塞ぎ込みようが酷かったので病院に担ぎ込んだところ、「慢性的なSub Dropである」という診断が下された。
極端なストレスに晒されたSubが陥る症状で、柔太朗ほど酷いのは久しぶりに見た、と先生は真顔のまま言い放った。
言外にスターダストプロモーションは何をしているんだと言われた。
まさかこの子を生贄に枕営業体制が確立されていました、とは口が裂けても言えないので、すみませんとだけ短く謝っておいた。
先生の説明に、俺は静かに背中が泡立つのを感じた。
──昔見た、Subの女優が自殺したニュース
柔太朗はその手前まで来てるんだ、と思い知った。
絶対にさせるもんか、と思った。
絶対に、また5人でステージに立つんだ。
今度は誰も犠牲にせず、自分たちの力だけで、立ってやる。
ぱきりとペットボトルを開けて柔太朗に手渡す。
柔太朗は落としこそしなかったものの、渡されたペットボトルをぼんやり見つめるだけで飲んでくれない。
柔太朗を怖がらせないように努めて明るい声で話しかける。
“Drink”は特に使いたくないCommandの1つだった。
きっと、酒を飲まされる時に使われただろうから。
ぽそりと柔太朗が何かを呟いた。
うまく聞き取れなくて、柔太朗の口元に耳を寄せる。
柔太朗は不安そうに、上目遣いで俺を見ていた。
即答すると、柔太朗は恐る恐るペットボトルに口をつけた。
最初はちびちび舐めるような飲み方だったけれど、実は喉が渇いていたのかだんだん勢いよく水が減っていく。
結局、柔太朗は1本まるまる飲み干した。
柔太朗をがばっと抱きしめて、大袈裟なくらい頭を撫でた。
たくさん褒めて頭を撫でていくうちに、どこか虚ろで不安そうだった柔太朗の顔が少しずつ緩んでいく。
表情こそ変わらないけれど、安心していくのが分かった。
柔太朗はしばらくされるがままだったけれど、やがて床に転がったままだったゼリー飲料を指してこれも飲むと言ってくれたから、ひとまず柔太朗に何か食べさせるという目標が達成できてほっと胸を撫で下ろす。
両手でゼリー飲料を持ってちゅうちゅう吸う柔太朗を後ろから抱きしめながら、ずいぶんとこけてしまった頬を撫でた。
柔太朗の手を引いてベットに引っ張り上げる。
と、柔太朗が急に俺の肩を押して、いきなりのことに俺は柔太朗に押し倒される形になった。
なんの脈絡もなく押し倒してきたと思ったら、急に柔太朗は俺のズボンを脱がそうとしてきた。
慌てて柔太朗の手首を掴んで止める。
思わず深呼吸をひとつ。
先生の言葉が脳裏に蘇る。
──『自分から苦手なプレイをしようとする時もあるので……』
だめだ、話が噛み合わない。
緩んだ俺の手をすり抜けて、柔太朗の手はまた俺の股間をまさぐっている。
そういうつもりは神に誓って一切ないのに、忙しくて抜けていなかったそこは外部刺激で勝手に硬さを増していっていて、まずいと思った俺は問答無用で柔太朗をひっくり返して後ろから羽交締めにした。
微妙に勃ってしまった俺のそれに柔太朗が腰を擦り付けてきて、俺は内心パニックになる。
どうしよう、これ、どうやったら柔太朗を傷つけずに止めれるんだろう。
ひとまず柔太朗の足に自分の足を絡めて固めると、ようやく柔太朗の動きが止まった。
あやすように、宥めるように、よしよしと後ろから柔太朗の頭を撫でる。
柔太朗は抵抗するでもなく、かといって撫でられて嬉しそうにするでもなく、不気味なほどじっとしてただされるがままになっていた。
不意に、ぽつりと柔太朗が呟く。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。