パニックに陥り、走り出した私の前に影の中から「それ」が這い出してきた
頭部は手鏡
体は綿の詰まったぬいぐるみ
けれどその手足は鋭い刃物になっていてガチガチと耳障りな音を立てて迫ってくる
資料を投げつけ必死に後ずさる
しかし背中は冷たいコンクリートではなく粘り気のある巨大な糸に遮られた
逃げ場はない
化け物が刃物を持ち上げ私の喉元に狙いを定めたその瞬間
鼓膜を震わせる轟音
目の前の景色が白銀の閃光に塗り潰された
光が収まるとそこには無数のマスケット銃を背後に浮かべ優雅に髪をかき上げる金髪の少女、巴マミが立っていた
彼女の微笑みは地獄から垂らされた蜘蛛の糸のように美しかった
けれどその肩に乗るキュゥべえの存在が私の本能に警鐘を鳴らす
キュゥべえが瞬き一つせずに私を見つめる
その無機質な赤い瞳の奥には私がずっと求めていた「真実」の片鱗とそれ以上に巨大な「奈落」が潜んでいるように見えた
夕闇の校舎で感じた違和感が今決定的な運命へと形を変えようとしていた











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!