お通夜も終わり、皆が帰り始めていた。
手を差し伸べられて、
その手を握りながら、夜道を歩いていた。
ポツリ、ポツリ、生前の頃の話を始めた。
私はよく父の本を読んでいたけど、
そのような本は見たことがなかった。
父は厳しくも優しい人だったと思う。
私の頭を腫れ物を扱うかのように撫でる。
その本を見ることがすごく楽しみだったのを
今でも鮮明に覚えていた。
私が誕生日を迎える1ヶ月も前のこと。
その日は酷く雨が降っていて、
嫌な予感がしていた。
昨日まで笑っていたはずのに父が
鬼の血相で、クソッと地面を叩きつける
───── バタンッ
勢いよく締め切られた引き戸を
私と母は見つめていた。
ただ、この時期から、母の体調が
目に見えるほどに悪くなっていたのを
よく覚えている。
父は、お金が無いから借金を作り、
母の薬代に宛てていた。
だが、そんな日々も続くはずがなく
地獄の日が私たちを襲った。
───── 3月上旬。
季節は温い風が吹くようになった。
母が生前の柔らかな笑みを
浮かべて亡くなった。
私の手を握って居たはずなのに
どんどん冷たくなっていく。
大好きだった私より大きな手も、
どんどん力が抜けていく。
母がたまに作ってくれていたご飯も
母が作ってくれた着物も
母がくれたたくさんの愛情も
_____ 全てが無くなった。
目に涙を浮かべて、それが零れ落ちる時
父は私を力強く抱きしめ、
何度も何度も
「ごめんなぁっ……!」、「ごめんッ……」
ひたすらに謝り続ける父に
私は、酷く動揺した。声すら出なかった。
私の目の前で一度も泣かなかった父。
今じゃ泣きじゃくりながら、
私と母をこれ程にないぐらい抱きしめた。
「 だから、行きなさい。 」
私に祖父の真剣を持たせて、
家から出させた。
お父さんは私を急かし、
私はポツポツと降り始める雨の中走った。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。