今年の夏、狗巻棘は実家へ戻っていた。
なんでも、お偉い家系の呪術師達が狗巻家を会食に誘ったのだという。
でも、この後大きな後悔をすることは誰も知らなかった…。
狗巻side
「いやぁ、棘くんだっけ?」
「…しゃけ」
「凄いねぇ。笑 まだ学生でしょう!」
個室の静かだった空間なのに、酒を飲むお偉いさんが騒がしい。
幸い、高級な和食店なだけあってお客も少なかった。
しかしのんびりできると言っても、マナーというものがあるだろう。
親がペコペコして、おじさんが満足そうな顔で酒をあおっているのを横目に、並べられた高級料理を口に運ぶ。
新鮮な刺身が驚くほど美味しかった。
食事も終盤にさしかかった頃、突然酔っ払ったお偉いさんに声を掛けられた。
「ねぇ棘くんさぁ、ちょっとこれ飲んでみない?」
「…」
あまり見たことがない、鮮やかな紫色をした飲み物。
そんなものを見たら誰だって困惑するだろう。
それを汲み取ったのか、その人は言葉を加えた。
「だぁいじょうぶ。ここの裏メニューで、すごく美味しいから。ね?」
両親は酒のせいか酔いつぶれているようだ。
ここで断っては、今後どんな仕打ちを受けるか分からない。
「しゃ、しゃけ…」
伝わっているのか分からないが、にんまりとした笑顔で得体の知れない液体を渡された。
(……)
無臭、サラサラとした液体、美しい紫色。
でも、もう飲むしかない。
「ゴク…ゴク…ゴク…」
どんなものかと不安な気持ちでいたが、飲んでみれば味は意外にも甘かった。
体に違和感もなく、毒物でもなさそうだ。
そのまま両親を起こし、その日は店の前で解散した。
高専の寮に着く。
先ほどまで一緒に歩いていた母は、そのまま実家に泊まることを提案したが、明日にはまた学校があるからと断った。
五条先生に戻ったことを報告し、シャワーを軽く済ます。
時計の針はてっぺんを指していて、もうとっくに就寝時間だった。
(ふぁ~…。)
結局、あの飲み物は何だったのか。
眠気が襲ってくるまで少し考えていたが、結論には至らなかったようで、瞼が落ちてきた。
僅かにグラスに残った白い沈殿物を忘れて。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!