君がいなくなって、何度目かの夏が来た。
僕は、あの日君と来た町に来ていた。
君が死んだところには、誰のかも分からない花が控えめに置いてあって、まだ君は忘れられてないんだと安堵する。
言ったでしょ。
ずっとそばにいてくれるんでしょ。
だから忘れないでよ。
僕は、ちゃんと覚えてるからね。
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神は、莉犬を救いはしなかった。
そして僕も、救われはしなかった。
僕は生きてしまったのだ。
莉犬は世界に殺された。
世界は莉犬を殺した。
僕は莉犬の、生きる理由にはなれなかった。
爽やかな風が吹く。
僕の髪を揺らして通り抜けていった風は、少し崩れかけた廃屋の虚しさをさらって行く。
僕らのあの日を全部閉じ込めた場所。
君の全て。
深く、息を吸う。
緑の匂いがした。
また、夏に帰ってきた。
また、季節が巡る。
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君がいないこの世界で、僕は生きていくことを選んだ。
幼かった僕ならば、不思議そうに問うだろう。
結局、生きるとはなんなのか。
その問の答えは、僕はまだわからないけど。
1つだけ、言えることがある。
僕は、生きるために生きている。
死ぬために生きているんじゃない。
いつか、死にたどり着いた時、後悔しないように。
悔いのない人生だったと思えるように。
美しく散れるように。
咲いて、枯れて、散る。
そんな、美しくも儚い人生を生きれるように。
もう、こんな世界に生まれなくてもいいように、今日を精一杯謳歌する。
誰に向けてでもなく、僕はそう呟いた。
最後に一度、君のいた場所に手を合わせてから外に出た。
そこは何も変わらず存在している。
時が止まっているみたいだ、とぼんやりと思う。
でも僕は進まなければいけない。
記憶を想い出にして進むしかない。
僕はきっと君を忘れない。
あの日のことを、きっと、死ぬまで覚えている。
もう、大丈夫だから。
僕は歩き出した。
ふと、声が聞こえた気がして振り返る。
今よりも少し幼い、二人の笑い声が聞こえたような気がする。
記憶の中で、僕らは笑っていた。
それで十分だ。
気づいたら目の縁に涙が溜まっていて、それを拭ってから息を吐いた。
僕の人生は、まだ始まったばかりらしいから。
君の人生は、終わってしまったけど。
今日を、一歩ずつ生きていく。
長い長い人生を。
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人は失ってばかりで。
失ってはじめて、その大切さに気づくから。
失って、失って。
そうやって、少しずつ大切なものが変わっていく。
たくさん失って、たくさんたくさん何かを得る。
そうして、いつか気が付くときが来る。
_____僕はまた、君と出会う。
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『あの夏が飽和する。』
-Fin-











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。