前の話
一覧へ
次の話

第1話

. 始まり=終わり
77
2026/01/29 02:40 更新
逃げ道だと思っていた路地は、思ったよりも狭かった。
背後から聞こえた足音に振り返った瞬間、あなたは理解する。










───もう、間に合わない。







「そんなに急がなくていいよ」






廉の声は、穏やかだった。
責めるでも、怒るでもない。
まるで、帰りが遅くなった恋人を呼び止めるみたいに。




「……どうして、ここに」





問いかけは震えていた。
廉は一歩近づく。距離が詰まるたび、空気が重くなる。




「偶然じゃないよ」
「君がここ通るの、知ってた」





それは当たり前の事実を述べるような口調だった。
疑問を挟む余地がない。


「ずっと見てたから」



背筋が冷える。
冗談だと笑えない沈黙が落ちた。









「好きなんだ」











廉は、困ったように笑う。



「好きでさ。君が思ってるより、ずっと」



あなたが後ずさると、廉はそれ以上詰めなかった。
逃げる余地を与えているようで、実際は違う。
出口は、すでに塞がれている。




「奪われるの、嫌だった」

「壊れるくらいなら、俺が守った方がいい」










鍵が指先で鳴る。













その音は小さいのに、やけに大きく響いた。





「大丈夫」

「怖いのは、最初だけだから」

腕を取られた瞬間、抵抗する力が抜けていく。
強く掴まれているわけじゃない。
なのに、離れられない。





「俺のそばにいればいい」





その言葉が、命令だと理解したときには、
もう遅かった。

プリ小説オーディオドラマ