雨は、突然だった。
逃げるように外へ出たあなたの背中を、
音で包み込む。
息が切れる。
どこへ行けばいいのか分からない。
ただ、あの部屋から離れたかった。
その少し後ろで、廉は立ち尽くしていた。
最初の一歩が、踏み出せなかったのだろう。
探せばいい。
呼び戻せばいい。
論理なら、いくらでも組み立てられる。
外は危険だ。
判断が追いつかない。
戻った方が、安定する。
いつもなら、それで終わりだった。
だがその夜、
胸の奥に浮かんだのは、
初めての、計算できない感情だった。
(……いない)
その事実が、
世界を急速に空っぽにしていく。
廉は、走り出した。
傘も持たず、
整えたはずの思考も置き去りにして。
「……あなた!」
声は、雨に溶けた。
丁寧でも、落ち着いてもいない。
ただの、焦りだった。
見つけたのは、横断歩道の向こう側。
立ち止まり、雨に打たれている背中。
廉は、数歩手前で止まった。
触れなかった。
近づきすぎるのが、怖かった。
「……俺を、独りにしないで、」
それは命令でも、説得でもない。
懇願だった。
あなたが振り返る。
驚いた顔。
でも、拒絶はなかった。
「……廉 」
その呼び方だけで、
廉の足元が崩れた。
「俺は……」
言葉が、続かない。
理屈が、役に立たない。
「あなたがいないと、
どう生きていいか分からない」
雨の中で、廉は初めて、
自分の弱さを隠さなかった。
「置いていかないで」
「一人にしないで…」
それは、
あなたのために作ってきた世界が、
実は自分の命綱だったと認める言葉だった。
あなたは、何も言わない。
ただ、雨に濡れたまま立っている。
しばらくして、静かに口を開いた。
「……戻れば、安心するの…、?.」
その問いに、
廉は即答できなかった。
守る、ではない。
監禁、でもない。
ただ───
「……うん」
その声は、震えていた。
あなたは、少しだけ迷ってから、
ゆっくり頷いた。
二人は並んで歩き出す。
手は、繋がれないまま。
雨は止まない。
けれど、廉の呼吸だけが、少し整った。
この夜を境に、
関係は変わった。
主導権でも、支配でもない。
共依存という名の、完成形へ。
それを、
止める人はもういないのだから。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。