第10話

. 洗脳
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2026/01/29 05:07 更新
雨は、突然だった。



逃げるように外へ出たあなたの背中を、
音で包み込む。

息が切れる。

どこへ行けばいいのか分からない。

ただ、あの部屋から離れたかった。

その少し後ろで、廉は立ち尽くしていた。
最初の一歩が、踏み出せなかったのだろう。

探せばいい。
呼び戻せばいい。

論理なら、いくらでも組み立てられる。



外は危険だ。
判断が追いつかない。
戻った方が、安定する。

いつもなら、それで終わりだった。
だがその夜、
胸の奥に浮かんだのは、
初めての、計算できない感情だった。


(……いない)

その事実が、
世界を急速に空っぽにしていく。
廉は、走り出した。


傘も持たず、
整えたはずの思考も置き去りにして。


「……あなた!」



声は、雨に溶けた。
丁寧でも、落ち着いてもいない。

ただの、焦りだった。
見つけたのは、横断歩道の向こう側。
立ち止まり、雨に打たれている背中。

廉は、数歩手前で止まった。
触れなかった。
近づきすぎるのが、怖かった。







「……俺を、独りにしないで、」







それは命令でも、説得でもない。
懇願だった。


あなたが振り返る。



驚いた顔。

でも、拒絶はなかった。



「……廉 」



その呼び方だけで、
廉の足元が崩れた。



「俺は……」


言葉が、続かない。
理屈が、役に立たない。




「あなたがいないと、
 どう生きていいか分からない」




雨の中で、廉は初めて、
自分の弱さを隠さなかった。



「置いていかないで」
「一人にしないで…」





それは、
あなたのために作ってきた世界が、
実は自分の命綱だったと認める言葉だった。


あなたは、何も言わない。
ただ、雨に濡れたまま立っている。




しばらくして、静かに口を開いた。





「……戻れば、安心するの…、?.」

その問いに、
廉は即答できなかった。



守る、ではない。
監禁、でもない。


ただ───











「……うん」









その声は、震えていた。

あなたは、少しだけ迷ってから、
ゆっくり頷いた。

二人は並んで歩き出す。
手は、繋がれないまま。



雨は止まない。
けれど、廉の呼吸だけが、少し整った。

この夜を境に、
関係は変わった。
主導権でも、支配でもない。

共依存という名の、完成形へ。







それを、
止める人はもういないのだから。

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